text by Seigo Nishikawa
53人のヴィンテージプレイヤーが志半ばにして敗退し迎えた決勝戦。そこで相対したのは予選ラウンド2位の家永と同4位の萩森となった。実は二人は旧知の間柄、というよりも常に東京は月島でヴィンテージの研鑽を積むチームメイト。
「日本煙突協会」と呼ばれるそのチームは日本でも有数のヴィンテージ調整チームであり、今回涙を飲んだプレイヤーにもチームメイトが多く在籍している。それだけに二人が席に着くと、一気に膨れ上がる観客の面々。「月島でやれよー」と軽口が飛ぶなか、決勝戦とは思えないような和やかな空気が流れる。
これが二人がヴィンテージを楽しむ「月島の光景」なのだろう
Game1
上記したように、予選上位の家永。1マリガンを喫してしまうが、それぐらいではその勢いが止まることは無い。6枚の手札の中には2枚の《Mishra's Workshop》を確認。ロケットスタートを遂げることができそうだ。
家永 祥孝
即ち《鋳造所の検査官》でゲームを開始すると、続けて《Mox Jet》から《アメジストのとげ》。これを出てしまうと一気に土俵際まで追い込まれかねない萩森は《意志の力》で跳ね返していくも、家永は意に介さず2枚目の《Mishra's Workshop》から《抵抗の宝球》。矢継ぎ早に第3ターンには《ファイレクシアの破棄者》とつなげる。
着地とほぼ同時に、悩む素振りも見せずに《ダク・フェイデン》を宣言する家永。
萩森がここまでに見せたカードは《Library of Alexandria》《意志の力》《精神的つまづき》《Tundra》のみだ。だが家永は自身の選択に一切の逡巡も見せなかった。「普段から顔を突き合わせている」その言葉を如実に示す瞬間であった。
それでも萩森もこのまま負けるわけにはいかない。《Volcanic Island》から《若き紅蓮術士》で、家永の言うようにトリコロールカラーであることを明らかにして、流れを取り戻しにかかる。家永の手札はわずかに1枚。このターンをさえ乗り切れば、まだまだ勝敗はわからない、と一瞬空気が変わりかける。
だが、家永の勢いは本物であった。残された1枚の《魔力の墓所》をセットすると、たった今ライブラリーから引き込んだ一枚を叩きつけて、指を4本立てる。
《若き紅蓮術士》に対して最高の回答
思わず天を仰ぎ「これは無理だなぁ」と零す萩森。
ターンは帰ってきたが、期待とは全く異なった状況となってしまった今できることはなく、1枚のプレインズウォーカーをキャストし「起動......できません!」と宣言すると、デッキをたたむことになった。その一枚こそがまさに《ダク・フェイデン》。
家永 1-0 萩森
Game2
家永の勢いに飲まれてしまったというわけではないだろうが、今度は萩森がマリガン。「土地が無い......」といいながら捲った6枚の手札にもそれは無く、唇をかみしめる。トラブルを抱える萩森に家永の《抵抗の宝球》《三なる宝球》が襲い掛かる。後者は必死に《意志の力》をするのだが、ただでさえ少ない萩森の手札がまた一つもぎ取られてしまう。
《鋳造所の検査官》《電結の荒廃者》を続ける家永に対して萩森からはうめき声。引き入れた《剣を鍬に》で検査官こそは排除するのだが、苦し気な表情は変わらない。家永からは《クルーグの災い魔、トラクソス》が追加された。
事ここに至れば後はもう解決策を引き込むしかない萩森。トンと軽く一回ライブラリートップを叩きそこに願いを込める。
萩森 格
家永の2枚目の《電結の荒廃者》によって活力を得た《クルーグの災い魔、トラクソス》が萩森に強力な一撃を叩きこむ。
さぁラストターンだ。最早手札のない萩森は、あとはライブラリーを信じるしかない。そんな萩森にもたらされたのは《宝船の巡航》。全ての土地と全ての墓地を使用して、1枚、2枚......3枚目をめくり
「遅いー」
萩森は叫んだ。萩森の待ち焦がれた《破壊放題》があったことを示すものの、それを打ち込むだけのマナもターンも持ち合わせていなかった。
家永 2-0 萩森
「初めて公式戦で萩森さんに勝った気がする」家永はそう呟きにっこりと笑った。
試合中くるくると表情を変え言葉を発した萩森と、口をぎゅっと結んで常に冷静沈着にゲームを進行した家永。実に対照的な二人の所作は試合前に見せた光景と相まって、二人の、いやチームの中の良さをこの上なく物語るものであった。
平成最後の競技ヴィンテージ、そこで見事に王者の称号得たのは家永 祥孝!
試合後に浮かべた笑顔は、今まさに激闘を終え一息ついたことで生まれた心からの笑顔であった、そういってもやぶさかではないであろう。
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