By Riku Imaizumi
400人以上。
日曜日のミシックチャンピオンシップ予選に集まった人数だ。
この大会において、優勝者だけが進めるミシックチャンピオンシップ。単純な倍率では実に400倍。マサチューセッツ工科大学も真っ青である。
これだけの人数が集まれば、受験本番=決勝ラウンドに進むだけでも相当な苦労が伴う。
道も半ばのラウンド4、まだ受験勉強に勤しんでいるような時期と言えるだろう。そんな急坂の最前線をお送りする。中道 大輔と 笠原 卓也の対戦だ。
中道(左)笠原(右)
Game 1
中道が《平地》から《霊気の薬瓶》を置く。【人間】、【白黒エルドラージ】。そのようなデッキが笠原の頭をかすめる。
出題対策はばっちりか? 持ち前の地頭で切り抜けるか?
笠原、《宝石鉱山》から《古きものの活性》だ。デッキの象徴、《精力の護符》を手札に加える。
中道は《手つかずの領土》から《教区の勇者》、《霊気の薬瓶》2枚目を追加。【アミュレット・タイタン】と目される笠原を破るには高速のビートダウンが必要だ。
2ターン目の笠原は《精力の護符》を置くと《カルニの庭》をセット。0/1の植物トークンを発生させ行動を終えると、中道の《霊気の薬瓶》から《教区の勇者》2枚目が飛び出した。
ターンを迎え、2枚の《霊気の薬瓶》が進む。カウンター1個、カウンター2個。
中道は《地平線の梢》をセットしてそのまま起動、手札を調節すると、そのまま攻撃する。
2/2の《教区の勇者》が植物トークンでブロックされたのを見て、《霊気の薬瓶》から《翻弄する魔道士》を戦場へ送り出した。
【アミュレット・タイタン】への回答は高速ビートダウンで間違いない。少しでも《教区の勇者》を育てるために《翻弄する魔道士》は現れた。が、肝心のその能力の指定は......「わからないな」とぽつり呟いた上で、「《原始のタイタン》」。
笠原は《グルールの芝地》を置き《カルニの庭》を手札へ。そして《仕組まれた爆薬》X=1をプレイした。《教区の勇者》2体、《霊気の薬瓶》2枚に刺さる強烈な1枚だ。
中道は、後に「《仕組まれた爆薬》が出てくるかわからなかったので展開したけど」と語る。
中道の戦闘フェイズ、自身の《精力の護符》を巻き込みつつも、《仕組まれた爆薬》の起動で中道に甚大な被害を与えた笠原に対し、中道は対応して《霊気の薬瓶》から《サリアの副官》。唯一残ったアタッカーの《翻弄する魔道士》を3/3に強化する程度だが、出し惜しみせずひたすら笠原の首を狙う。
しかし、後が続かない。《金属海の沿岸》を置くと、もう彼の手札には《手付かずの領土》しか残っていなかった。
一方で、《カルニの庭》で植物トークンを得た笠原の手も遅い。
中道は《民兵のラッパ手》から《帆凧の掠め盗り》を得る。《サリアの副官》《翻弄する魔道士》の攻撃で、植物トークンを撃破しつつ笠原のライフは13へ。
笠原は《睡蓮の花》を待機させ、《召喚士の契約》から《スラーグ牙》をサーチ。そのままプレイした。2ターン・キルで知られる【アミュレット・タイタン】の爆発力は今回鳴りを潜め、堅実に【人間】の行く手を阻んでいる。
攻め立てる中道
《帆凧の掠め盗り》で公開された手札は《シミックの成長室》2枚と《原始のタイタン》。《翻弄する魔道士》が笠原の手を封じている構図が明らかになる。
《スラーグ牙》と《サリアの副官》が相打ち。その後も"契約"の履行で動けない笠原に、中道が攻撃を続ける。《スラーグ牙》の遺産・ビーストトークンを《反射魔道士》で排除し、ライフを12まで落ち込ませた。
しかし、押し込めない。
続く笠原のターン、《翻弄する魔道士》に突き刺さる《歩行バリスタ》X=3。
中道はフルアタックを敢行するも、《歩行バリスタ》が《翻弄する魔道士》を退かすと《原始のタイタン》がついに現れた。
《原始のタイタン》を従える笠原
サーチするのは《カビーラの交易路》、《アカデミーの廃墟》。
《アカデミーの廃墟》で《精力の護符》を復活させ、召喚酔いが溶けたタイタンで、《軍の要塞、サンホーム》をサーチした笠原のライフを、中道は削り切ることができなかった。
中道 0 - 1 笠原
Game 2
マリガンをした中道の初手は、《教区の勇者》《サリアの副官》土地4枚。その上《地平線の梢》は含まれていない。
引き次第の部分は大きいが、【アミュレット・タイタン】への模範解答たる高速ビートダウンの要件を満たすこの手札を、中道はしぶしぶキープした。
《教区の勇者》からスタートしたゲーム、中道の初動は《睡蓮の花》《宝石鉱山》《古きものの活性》と大盤振る舞いだ。《シミックの成長室》が手札に加わる。
中道は予定通り《サリアの副官》。最速で攻め切る以外、すでに中道に道はない。
一方の笠原、そんな中道を上回るスピードを予感させる。《精力の護符》2枚だ。
《シミックの成長室》などのバウンス・ランドは、《精力の護符》の数だけアンタップする。爆発的なマナ加速の予兆、笠原は中道よりも早くゲームに勝とうとしていた。
しかし、《カマキリの乗り手》を戦列に加えた中道は、笠原へ一気に9点を刻みこむ! もはやターンを返せば負けは確定。普通のデッキならばひとたまりもないこの難問、笠原の手に解答は――
「負けました」
なかった。
中道 1 - 1 笠原
Game 3
両者マリガンによりお互い6枚スタート。
《カルニの庭》のアンタップを待って《古きものの活性》で《シミックの成長室》を加えた笠原、しかしそれをセットランドしないままターンを返す。
一見不自然に見えるこのプレイ、中道は首をひねるものの、結局回答は同じだ。
《教区の勇者》《教区の勇者》《貴族の教主》と並べた中道のクロックはトップスピードと言って良いだろう。2ターン目にして5点クロックが完成した。
《精力の護符》と《トレイリア西部》が置かれると、中道はターンを受け取って、《サリアの副官》を2枚プレイ。なんと13点に膨れ上がった彼のクロックは、そのまま笠原の懐へ飛び込んでいく。
強烈な一撃、13点
とんでもない量のクロックに、笠原はひとたまりもなく負けを――認めない。《仕組まれた爆薬》が人間たちをけん制すると、《ヴェズーヴァ》が《カルニの庭》の姿を借りた。
中道、いつしか手札は土地と《霊気の薬瓶》だけになっていた。《地平線の梢》も彼にクリーチャーをもたらさない。
残る《サリアの副官》で笠原のライフは2に落ち込むものの、《仕組まれた爆薬》が火を放つ。
さらに、ターンを迎えた笠原は《炎渦竜巻》で追い打ちをかける!
あとは笠原が巨大クリーチャーで押しつぶすだけ。
そう思えた瞬間、中道の《カマキリの乗り手》がデッキトップから飛び出した。
中道 2 - 1 笠原
「デッキが難しい」。笠原の言葉だった。
【アミュレット・タイタン】は環境でも屈指の難しさと評される。土地が重要なデッキであるため動きが独特であり、かつサーチ呪文を多用するため選択肢が多いことが理由だ。
総じて、通常のデッキを操るのとは別軸のスキルが必要とされる。
しかしながら、マナが大量に出ることや、サーチカードを使えることから、デッキに独自のスパイスを利かせることも可能だ。
「《歩行バリスタ》を見て、こんなのも出てくるんだ、へえってなりましたよ。
《スラーグ牙》も出されて、サイドボード後のゲームをされてるみたいでした」
中道を下した1戦目、笠原によると、「《スラーグ牙》は【バーン】に負けたからメインに入れた」とのこと。
「サーチが多いので、1枚入れておくだけでも良く機能するんです。《仕組まれた爆薬》もそうですね」
「ちょっと違う構築で困惑しました」と中道。
「《翻弄する魔道士》を対策してフィニッシャーを分散させた狙いがハマりました」
自由度が高いということは、メタゲームに合わせて自由な形をとれるということ。
広大な出題範囲から簡単に狙いを定められるのは、ミシックチャンピオンシップへの参加という厳しい受験戦争を勝ち抜くにあたって、メリットに他ならない。
「《睡蓮の花》は《桜族の斥候》の枠で採用しているんです」
《減衰球》《血染めの月》を意に介さないマナブーストもまた、難問への回答となる。
しかし、今回は中道が上を行った。その中道でさえも、残るラウンドを勝ち上がらなければ届かない。
ミシックチャンピオンシップへの参加、「合格」までの道は、まだまだ遠い。
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