【マジックフェスト・横浜2019】土曜ミシックチャンピオンシップ『バルセロナ』予選 決勝戦 平山 怜(東京) vs. Huang Yung-Ming(台湾)
by Yohei Tomizawa
参加を予定していた金曜日のミシックチャンピオンシップ予選に、海外から遠征をしてきたホワン ユン ミン/Huang Yung-Mingは現れなかった。キャンセルもなく、寝坊や遅刻ではなかった。本人の意思とは関係ないところで、参加するどころではない状況に陥ってしまったのだ。
ホワン「I lost passport.」
再発行の手続きが済んだ今だからこそ苦笑しながら教えてくれたが、当時は心中穏やかではなかったことだろう。パスポートは身分の保証と同時に他国における存在証明だからだ。
だがそれにより十分すぎるほどのカルマは溜まった。溜まりに溜まったカルマは爆発し、このミシックチャンピオンシップ予選でホワンを強烈に後押しした。焦点と語ってくれたラウンド1の「トロン」戦ではトロンランドが枯渇するほどマナベースを攻め続けたというのだ。
そのまま順調に勝ち星を重ね気が付けば決勝戦。それこそ1ヶ月前開催された『マジックフェスト・京都2019』の日曜MCQでもホワンは決勝戦にいた。とり逃した権利が、目の前に再び迫っている。
だが、勢いというなら平山 怜も負けてはいない。都内の同年代プレイヤーたちと切磋琢磨する平山は、『グランプリ・名古屋2018』の日曜MCQ以来の決勝戦となる。これまでの鬱憤をはらすかのようにラウンド2では「トロン」に対して3ターン目にして13点という規格外のダメージを叩きだし勝利し、ラウンド4では《ゲトの裏切り者、カリタス》と《漁る軟泥》の上から《弧光のフェニックス》を舞わせビートダウンを完遂した。
平山の手からキャストされる《信仰無き物あさり》は、このトーナメントで常に逆転への足掛かりとなってきた。決勝戦でもその有無が勝負の分かれ目とさえ思われる程に。
シャッフルを終え、写真撮影のためにかたい握手を交わすと、最終戦の幕は開く。
Game1
開幕ターン、平山の手札には全てが揃っていた。《弧光のフェニックス》を落とす《信仰無き物あさり》に、マナの分だけ連鎖が続く軽量ドロースペルたちと、3ターン目から《弧光のフェニックス》でビートダウンを狙えるものだった。《弧光のフェニックス》が墓地へと置かれるとホワンはあからさまに嫌な顔をしたため、先ずは平山リードかと思われた。
ホワン「《虚無の呪文爆弾》」
後手1ターン目に置かれたアーティファクトは、平山に大きな制限を課す。手を止めるわけにもいかず、ライブラリーを掘り進むが、気のせいかその動きは《信仰無き物あさり》をキャストした時とは変わっていた。
再考する平山に対し、ホワンは手札の《闇の腹心》を活かすために《思考囲い》で紅き電撃を落とす。もちろん《虚無の呪文爆弾》用に黒マナは残してある。
《虚無の呪文爆弾》のプレッシャーを跳ね除けるように、平山はデッキを掘り進める。それこそ《思考掃き》すらもプレイし、4枚目土地を探す。二の矢として手札に控える《弾けるドレイク》を続く4ターン目に着地させるためだ。
土地を探す過程で3枚のスペルが唱えられ《弧光のフェニックス》が墓地より舞い戻ろうとするが、ホワンは《虚無の呪文爆弾》を起動する。いや、起動させたというべきか。これにより再び墓地を肥やすことが可能となり、《弾けるドレイク》に至ってはゲーム外へと除外されていようがパワー参照となる。
《闇の腹心》の返しに《弧光のフェニックス》が走り始め、タップアウトで《弾けるドレイク》が続く。既にパワーはホワンのライフを上回っている。
だが、ホワンは《ゲトの裏切り者、カリタス》をキャストすると《新緑の地下墓地》経由で《致命的な一押し》を見舞う。平山が用意したクリーチャーはホワンの配下となって今にも襲い掛かろうとしている。
平山に残された手は一つしかない。《氷の中の存在》をキャストし、《信仰無き物あさり》を唱える。《目覚めた恐怖》へ変身させ、バウンスを目論んだのだ。
《信仰無き物あさり》は《血清の幻視》を届け、《選択》と後1枚までたどり着く。この《選択》のドローに全てがかかっているのだ。占術によりカードをライブラリーボトムへ送るとリフレッシュされたカードを手札へと加える。
しかしそれは、望んだものではなかった。
平山 0-1 ホワン
Game2
《コジレックの審問》が平山へ情報公開を迫ると、《血清の幻視》×2、《魔力変》、《稲妻の斧》、《稲妻》、そして《反逆の先導者、チャンドラ》と呪文に溢れた手札が公開された。ここで捨てさせるのは《魔力変》。
続く《集団的蛮行》はホワンへと《氷の中の存在》を知らせ、《稲妻の斧》を捨てさせる。どうやら《タルモゴイフ》がいるようだ。
ならばと平山は視点を変える。《紅蓮術士の昇天》をプレイグラウンドへと送り込む。度重なるドロースペルにより墓地は十分肥えている。後は手札からキャストし、紅蓮のエンチャントへとカウンターをのせるだけだ。
ここでも確かに《紅蓮術士の昇天》を目にして、ホワンはため息をついた。その上で。
あるんかい!!墓地は一層され、そのキャントリップで引き込んだ《コジレックの審問》は平山の土地が2枚ということもあり《血清の幻視》を落とし、《稲妻》《氷の中の存在》《反逆の先導者、チャンドラ》を残す。
頼みの《氷の中の存在》も《致命的な一押し》され、安全確認を済ませたホワンは5/6の《タルモゴイフ》を1体、2体と送り込む。
平山に残されたライフは11しかなく、打開策を求めてデッキを掘り進める。逆転の布石となり続けた《信仰無き物あさり》で《弧光のフェニックス》を捨て、追加を求めて《思考掃き》をキャストすると《イゼット副長、ラル》が墓地へと落ちる。違う、お前じゃない。《弧光のフェニックス》こそ求めているカードなのだ。
そしてこの《イゼット副長、ラル》こそ、ホワンが求めていたカードだった。《タルモゴイフ》を待ち受ける孤高のブロッカーの前に現れたのは《ヴェールのリリアナ》。彼女が《弧光のフェニックス》へと退場を迫ると、
平山「1」
と戦闘後のライフを伝える。
ホワン「No.」
と平山の墓地を指さす。そこには《思考掃き》で落ちた《イゼット副長、ラル》の姿が。これこそホワンが求めていたカードだった。
新たなカードタイプが落ちたことで2匹のルアゴイフを成長し、ホワンへと勝利を届けた。
平山 0-2 ホワン
大好きなカードたちなんだと語ってくれた《闇の腹心》と《ヴェールのリリアナ》、《タルモゴイフ》で勝利を収めて、ホワンは喜びを爆発させた。プロツアーから通算8回目だというミシックチャンピオンシップの舞台は、3年ぶり。ベストを尽くし、何よりも楽しむことを第一に考えている。
それと同時に、ホワンは私たちへ一つの答えを提示してくれた。人は、己に枷を課すことで、代償を支払うことで力を得ることができる。前日のパスポートの紛失は、ミシックチャンピオンシップへのはじまりに過ぎず、権利獲得への必要な代償だったのだと。
だから笑顔で、こう締めくくってくれたのだ。
ホワン「I lost passport...
...but I get MC!」
ミシックチャンピオンシップ『バルセロナ』予選、優勝はホワン ユン ミン/Huang Yung-Ming!おめでとう!
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