text by Seigo Nishikawa
所謂プロプレイヤーをはじめとする有名プレイヤーがここ最近次々とMtGの配信や、記事投稿などを行っている。それをみてそのプレイの凄さに驚いたり、プロでもミスをすることがあるのだと安心したり、知らない知識を手に入れたり、と私たち視聴者・読者側は日々楽しみを享受している。一方で配信者・投稿者がどういったことを考えてそれを行っているのか、そういったことを知る機会は意外にも少ない。
幸いにもBIG MAGICで公式ページにおいて、何人もの方に配信・投稿を行っていただいている。彼らが何を考え日々の配信・投稿を行っているのか、その一端をお伝えしたくインタビューを依頼したところ快諾いただいたので、この場を借りてお送りしたい。
まずは日本のMtG配信者の第一人者ともいえる岩SHOW。彼が他と違うのは「プロプレイヤーではない」ということだ。「マジックに勝たずにプロツアー会場に招かれた男」と自ら評するように彼には決して特筆するような戦績があるわけではない。それでもその豊富な知識量、語り口、独特な表現で衆目の知る存在となった彼。そんな彼はこう語る。
僕の理想像は「紙芝居のおじいさん」です
-- 岩SHOWさんといえば、Magic Arenaがまだクローズドβだった時分から定期的に配信されています
岩SHOW おかげさまで、初期の応募に通ることができて、アカウントをいただけたので最初期からやらせてもらえてます。少なくとも週1回はやりたいなと思ってますね。最近ちょっと忙しいのですが、一番多い時で週6はやってました。
-- 週6!?
岩SHOW 週6やりました。個人で。楽しくなっちゃって。
-- 最近Arenaのプレイヤー数が急激に増えているという話がありますが、それを感じることはありますか。
岩SHOW 視聴者数はやっぱり増えました。特に日本語化と同時に2割ぐらいは増えたという感じがします。実は僕はBIG MAGICからの依頼で行っている配信と、個人で楽しむための配信の2つをやっているんですけど、特にBIG MAGICの配信のほうはArenaが広まったが故に増えた視聴者が多いなと。
-- どういったところからそれを感じますか
岩SHOW コメントとかで、初歩的な質問を打ってくれる人が多くなったり......MtGって略語が多いじゃないですか。ラスゴ(※1)とか。「ラスゴ引けるかなぁ」みたいな話をした時に、反応する層と反応しない層というのが凄く明確に分かれていて。反応する層は、覚えている名前が多くて初期から見てくれている方たちだなと。そこでは反応がなくて、もっと簡単に「除去引けるかな」って話したときにコメント打ってくれる方が新しい名前ってことが多いですね。
※1 《神の怒り》の略称。それ以降のクリーチャー全体除去のカードは総じて「ラスゴ」と呼ばれることがある
-- ラス・オブ・ゴッド自体がスタンダードからなくなって何年もたった今「ラスゴ」が伝わらない人というのは大勢いると思います。それでも例えばグランプリ中継などで、解説の方とかから、ついそういった言葉が出てしまいます。
岩SHOW そうですね。身に沁みついているものですからね。
-- そういったときでも、岩SHOWさんはぱっと日本語のカード名が出てきますよね。
岩SHOW ラスゴじゃなくて《ケイヤの怒り》ですね、といったことですか?
-- はい。ラスゴに限ったわけではないですが。例えばクリーチャー名とかもそうです。すらすらと出てくるイメージが凄くあるのですが、そういった知識というのはどのように蓄えているのかなと。
岩SHOW モダンとかレガシーなど昔から触れているカードは基本的に忘れない。20年以上あっていない友達とかでも、パンチの効いたエピソードが一つあるだけで、名前って忘れないじゃないですか。それと一緒で、古いカードはそれで遊んできた経験があるから、一度でも触れたことがあれば忘れることは無いですね。一方で経験が無い新しいカードはもう覚えるしかないですね。移動中とかもリストとにらめっこしたりとか、そこは「覚えよう」と意識をもって触れてます。ただ今のスタンダードに関しては、Arenaを日本語でプレイできるので勝手に覚えられるのでとても助かります。今から先は特にテクニックとかなくて、誰でも自然と覚えられる状況ができているんじゃないでしょうか。なのでそこに関する問題は無くて、これからの課題はいかに「ラスゴ」とかのワードを使わないようにするか。沁みついてしまった古い自分をどこかで切り離さなければいけない、というほうが大きいかなと。
-- 公式でやられている配信と個人での配信でスタンスの違いとかってありますか?
岩SHOW WizardsやBIG Magicの配信は僕の中ではオフィシャルのものなので、気は使って......使えてますよね
-- 公式としてははっちゃけているほうかと
岩SHOW 黒田正城がいるとちょっと突き抜けてしまいますけど(笑)まぁ基本的には公式でやるときは余所行きです。スーツ着て冠婚葬祭に立ち会っているぐらいの感覚ではいます。そういった場でも冗談を言いたいタイプなので、ぽろっと挟み込みますけどね。それを良いと思ってくれる人もいれば、「真面目な場やぞ」と注意してくれる人もいる、これはどちらも正しいですしありがたいです。一方で個人でやっているときはそういったものを全部取っ払ってやってます。
-- 素の岩SHOWが見れる
岩SHOW そうです。公式とかで「デイリー・デッキ読みました!」ってコメントくれる方がいるんですけど、僕の個人放送を見たら、こんなおっさんだったの......って引くかもしれない。逆に嵌ってくれるかもしれない。
-- 波長が合うかどうか
岩SHOW そもそも何故個人でやるようになったかというと、マジックを仕事にさせてもらっているので、マジックをやらないことには何もできない。でも一人でマジックをやるのってしんどいなって思って。配信を見てくれている人にはわかっていただけると思うんですが、僕めっちゃマナフラッド・マナスクリューしまくるんですよ。以前に2時間半配信したときに、マナトラブル連発で2勝しかできないって時があって
-- 見てるほうも辛いですね、それは。
岩SHOW そうそう。これ一人でやってたら「マウス投げてまう」ってなる。それぐらいなら、その怒りを笑いに昇華したい。そうすれば自分もすっきりするし、見てくれる人は笑って満足してくれるかなと。後、マジックに関しては人から教わることが凄く多いんですよ。理論上わかっていても1度もその場面に出会わなかったから知らなかったことってとても多くて。例えば《ケイヤの怒り》でクリーチャーを流された後に、《クロールの銛撃ち》を出したらパワーが一時的に上がって、結果《原初の飢え、ガルタ》を2マナで出せるみたいな。言われればそうだけど、実際この前の配信でそういった状況になったときはっとなって。「だから《クロールの銛撃ち》は対コントロールのサイド後でもある程度数は残すんだよね」みたいな話を視聴者のコメントとやり取りしたことで、勉強になったりとか。マジックを教わるという意味でも個人的な場は大事だなと思って始めたんですよね。
-- 加えてArenaとかですと、画面上の表示も変わるから直感的にもわかりやすいですね。
岩SHOW 《クロールの銛撃ち》にしても《原初の飢え、ガルタ》にしても数字で教えてくれるんで、紙にはない魅力かと。
-- 勉強という意味ではですが、他の方の配信って見られますか?
岩SHOW 僕ね、まったく見ないんですよ。言い方が悪いかもしれないんですが興味がない。多分配信をやっていく上で、この業界で成功されている方を見て勉強すべきとは感じるんですが、特に個人でやるほうに関しては勉強したくないなと思って。僕がストリーマーとして生計をたてていくとかならお客さんの盛り上げ方とか学ぶべきですけど、趣味でやっていることにどこまで頑張りが必要なのかなと。自分が楽しいことをしたい、自分が面白くないと思ったら見てる人も多分そう思うだろうなと。
-- 言葉は変かもしれませんが、岩SHOWさんのパフォーマンスは独力で手に入れたというものですか
岩SHOW ゲーム配信とかを見て勉強することはなかったですけど、これまで完全に他ジャンルの世界のスターたちからは凄く影響を受けています。プロレスの実況とか、例えば古舘伊知郎さんとかとても勉強になるなと。あれほどすらすらと言葉は出てこないですけど、とにかく世界観を作るというのが大事だということを教わった部分があります。
-- 一度フレーズを聞いたら何かわかった気になる、その世界に取り込まれているというのはありますね
岩SHOW 例えばボブ・サップを「戦うワシントン条約違反」って表現するとか。多分思いついたフレーズに対してこれ違うよな、って思わずに次々と投げかけて、世界を作り上げていく。その姿勢はリスペクトしていますね。ステージは配信でもその姿勢でやっているので受けることもあれば勿論すべることもあって
-- ダメなものは捨てて、受けたものはもう一度使って、岩SHOWワールドを作り上げる
岩SHOW そうですね
-- 少し話は変わりますが、Wizards公式で先ほど少し話題にあがったデイリー・デッキの連載をされています
岩SHOW おかげさまで、僕の手元は808回分ぐらいの原稿があります
-- 808! だいたい2年半以上ってとこでしょうか
岩SHOW それぐらいになります。ここまで連載させていただいてありがたい限りです
-- それだけの数のアイデアはどのようにだしているんですか
岩SHOW これはもう世界中でデッキを作ってくれているプレイヤーのおかげですね。MAGIC Onlineのリストをはじめとして色々なサイトで上がっているリストにあたります。メジャーなデッキって誰もが知ってますよね。見ているサイトの中で世界中の大会主催者が独自に登録できるサイトってのがあるんですよ。ブラジルで行われた参加者15人の大会の優勝リストとか、見ていると魅力的なデッキの塊でそこから引っ張ってきますね
-- 実際に回してみるんですか
岩SHOW さすがに全部は無理ですけどね。
-- さすがにこれだけの回数を重ねてくると取りあげるデッキなどに悩まれたりもするのではないかと思いますが
岩SHOW 悩むときは正直ありますね。特に環境が停滞したときとか。ドミナリア初期の赤黒一色だった環境は結構しんどかったですね。ただそういったときも「多分僕がデッキを見つけられていないだけ」で、探せば必ず何か新しいものがあります。
-- 僕がデッキをみつけられていない、ですか
岩SHOW 異界月がバントカンパニー一色で染まったときとかも、気になったカード名で検索していたら青緑狼というデッキを見つけて「世界にはこんなデッキで勝っている人がいる」って感慨を受けましたね。MtGプレイヤーの数だけデッキはあるから、ネタが尽きることは無いと思います。Arenaも日本語になって、灯争大戦で魅力的なキャラがいっぱい増えたし、どんどん新しいデッキが出てくるでしょう。
-- 岩SHOWさんといえば、マジックのストーリーにも造詣が深い。灯争大戦は語るところだらけのセットですが、ストーリーも読み込んで勉強ですか
岩SHOW 勉強ですね、それは。自分が知らない部分もあるから、見て、勉強して、こんな設定だったんだって噛みしめて。それをステージや配信で共有する。さすがに世代ではないですけど、紙芝居って昔屋台とかであったらしいじゃないですか。あの時のおじいさんって別に桃太郎じゃないですよね。でも自分の手元にある紙芝居を読み込んで、桃太郎のことを理解して、子供たちに伝えていこうって勉強していた。どれだけ力をいれてどんぶらこって言えるか、練習したと思うんです。僕が今目指しているのはその紙芝居のおじいさんですね。「飴いる?」 って売りながら(笑)
-- パックいる? って配りながら(笑)
岩SHOW 僕の話聞いて楽しかったらBIG MAGICでパック買ってねみたいな。そんな感じになりたいですね。オフィシャルの場では紙芝居を読むおじいさん、個人の配信では正月や盆に会うちょっと面白い酔ったおっちゃん、が僕の目指すところです。
-- 紙芝居のおっちゃんの日常生活
岩SHOW そうですね。紙芝居が終わった後、おっちゃんのことを子供が追いかけていって、家までついていったら幻滅するかもしれないし、面白い人だなあって増々嵌るかもしれない。自分の紙芝居したいと考えるかもしれない。紙芝居の爺の公と私をみてくれればいいですね(笑)
-- そんな岩SHOWの紙芝居を楽しみにしてくれている視聴者・読者の皆様に一言いただけますか
岩SHOW いつもお世話になっております。個人配信のほうですが、5月までには自分専用のスタンプを配信できるので、Subscribe(※2)宜しくお願いします。
-- 紙芝居の後に飴だけじゃなくて、ガムもあるよ。買ってね
岩SHOW もう桃太郎ばっかりで飽きたやろ。新しいの買わないといけないからSubscribeしてくれ。40年前のモノクロ版の浦島太郎しか手元にないねん、カラー版の「浦島太郎」わくわくするでしょ......めっちゃ汚いこと言ってますが(笑)
-- わかってるよな、と。
岩SHOW まぁそれは冗談としても。今までもSubscribeしてくれる方もいましたし、そういった方たちに形で返せるようになります。まぁ僕が「どすこーい」とか言ってるだけのものになると思いますけど、それを使ってより盛り上がっていけるようになれば良いなと思いますね。岩SHOWのスタイルを確立できるかなと思うので、これからも楽しんでいきましょう
-- ありがとうございました
マジックフェスト・横浜2019 サイドイベントカバレージページ