By Riku Imaizumi
ミステリーブースターとは、1,694種類のカードからなるブースターパックである。
この数は通常パックの5倍にもおよび、単なる再録セットとは一線を画す製品だ。
なぜこんなに多くのカードを収録したのかという問いの答えは、「カオス・ドラフト用の製品だから」となる。
カオス・ドラフトとは、各自好きなパックを持ち寄って行うドラフトだ。パック間のシナジーが希薄だが、時に思いもよらないカード同士のコンボが決まることもある。『シャドウムーア』と『アモンケット』を混ぜてドラフトをしたら、《献身のドルイド》と《療治の侍臣》の無限マナ・コンボが揃うことだってあるのだ。
ミステリーブースターは、そんなカオス・ドラフトを一種類で実現できるパックである。
そして、ミステリーブースターにおけるなによりの注目ポイントは「公式にマジックのカードとして印刷されなかったプレイテスト用カードが出現する」ことだ。
プレイテスト用カードとは、例えばこんなカードである。
通常のカードに白い紙が張り付いているようなデザインで、一見して通常のマジックで使えないであろうことがわかる。(実際、通常の構築フォーマットでは使えない)
しかし、これはミステリーブースターのドラフトの最中には使用可能だ。
さて、それではこのカードはどんな能力を持っているのだろうか?
ミステリーブースターには英語版にしか存在しない。そのため、固有名詞を除いて日本語に訳してみよう。
マジックの良いところは、読むことさえできればカードの能力を理解できることだ。言語がわからずとも、翻訳はできる。書いてあることがわかれば、あとはそれをルールに照らし合わせるだけで良い。
カード名:次元間のブラッシュワグ(仮) / Interplanar Brushwagg (3)(緑)
クリーチャー -- ブラッシュワグ(Brushwagg)
Interplanar(このクリーチャーは次元間戦場に出る。プレイヤーは次元間戦場のクリーチャーをコントロールできない。)
警戒、速攻
プレイヤー1人がパワー4以上のクリーチャーで攻撃するたび、Interplanar Brushwaggはそのクリーチャーが攻撃しているプレイヤーかプレインズウォーカーを攻撃する。
[テストカード - 構築では使用できない。]
6/4
このクリーチャーは次元間戦場に出る。なるほど、ちょっと難しい言葉が使われているな。
マジックの良いところは、読むことさえできればカードの能力を理解できることだ。よくわからないときはもう一回読んでみよう。
このクリーチャーは次元間戦場に出る。なるほど。
次元間戦場ってなんだ???
一切耳にしたことがない言葉がいきなり飛び込んでくる。次元間戦場ってなんだ???
ここまで読んでもよくわからない。それならリリースノートを見てみよう。だいたいのルールに関する事項が英語で書いてあるはずだ。
リリースノートを開くと、Interplanar Brushwaggの項目に多数の箇条書きがされていた。良し、これさえあれば大丈夫だ。
どれどれ、日本語に訳してみよう......。
次元間戦場のオブジェクトは戦場に存在し、次元間パーマネントとして知られている。
(Objects on the interplanar battlefield are on the battlefield and are known as interplanar permanents.)
わかるかッッッ!!!
初耳の用語の説明を求めてページを開いたら初耳の用語を増やされた。説明につぐ説明、説明書を開いたら説明書の説明書を見せられた感じだ。
とはいえ、リリースノートを読み進めていくとだいたいのことがわかった。
まず、次元間戦場とは特別な領域のことである。統率者領域みたいなものと考えるとわかりやすいかもしれないが、あくまで戦場であり、そこに置かれているものはパーマネントである。《神の怒り》のような全体除去の影響も受ければ、《巨大化》のような呪文のターゲットにもできる。
そして、次元間パーマネントとは単に次元間戦場に存在するパーマネントのことを指し、誰からもコントロールされない。そのため装備能力の対象にできないし、もちろん攻撃宣言を行うこともできない。
ならばこの次元間のブラッシュワグ(仮)はいったい何をするのかといえば、「パワー4以上のクリーチャーの攻撃が発生した時、いっしょになってそのクリーチャーと同じ対象のプレイヤーやプレインズウォーカーを攻撃する」らしい。
もちろん次元間のブラッシュワグ(仮)のオーナーが条件を満たせば攻撃してくれるが、対戦相手がパワー4以上のクリーチャーで攻撃すると今度はオーナーが攻撃されてしまう。お互いにコントロールできないクリーチャー、というコンセプトのカードである。
ミステリーブースターのドラフトに関する記事のはずが、いつの間にか次元間のブラッシュワグ(仮)の能力の説明だけでけっこうな文の量になってしまった。ちなみにブラッシュワグは黒枠世界に実在するクリーチャータイプだ。
この通り、プレイテストカードは個性的で難しく、なにより新しい能力に溢れている。こんな魅力的なカードたちが収録されたセットなら、誰もが一度はドラフトしたいと思うだろう。
そんな願いが、マジックフェスト・名古屋2020#1で叶うのだ。
(ここまでを短く序文にまとめたかったけど無理でした)
マジック・フェスト名古屋で、ミステリーブースタードラフトを楽しもう!
マジック・フェスト名古屋では、金曜から日曜まで、全日ミステリーブースタードラフトのオンデマンドイベント(8人集まり次第開始するイベント)を実施している。時間はいずれも12:00-17:00だ。
初日の金曜日は、開始時間の12:00頃にこれだけの人数が集まった。
ミステリーブースタードラフト以外のイベントを目当てにしている人も混じっているが、ほとんどがミステリーブースタードラフトの参加者である。
一時的とはいえ、参加列の形成にイベントの開始処理が追い付かない状況になっていた。素晴らしい人気である。
ドラフト風景実録! 奇怪なカードの氾濫
さて、今回は参加者にご協力いただき、ドラフトの風景を撮影させていただいた。
次元間のブラッシュワグ(仮)以外にもたくさんの奇怪(誉め言葉)なカードが飛び交っていた。
(ドラフト中の撮影のため、撮影できたカードの色に強く偏りがあるのはご容赦いただきたい)
イラストがかわいい
Soulmates (2)(緑)
エンチャント -- オーラ(Aura)
エンチャント(2体のクリーチャー)
エンチャントされている各クリーチャーは+1/+1の修整を受けるとともに呪禁を持つ。
エンチャントされているクリーチャーの1体が死亡したとき、もう一方のクリーチャーを破壊する。
[テストカード - 構築では使用できない。]
イラストにコメントしづらい
Geometric Weird (赤)
クリーチャー -- 奇魔(Weird)
各終了ステップの開始時に、あなたは「Geometric Weirdの基本のパワーとタフネスはそれぞれ、このターンに同時にスタックに置かれていた、呪文や異なる発生源からの能力の最大の数に等しい値になる。」を選んでもよい。
[テストカード - 構築では使用できない。]
1/1
Mark Rosewater氏の好きなシリーズ、「倍加」。《倍増の季節》の上に描かれているらしき点が細かい
Maro's Gone Nuts (緑)(緑)
エンチャント
倍にする効果を倍にする。(それは4倍にする。)
[テストカード - 構築では使用できない。]
スタック上の呪文に影響を与えるカードも多数
Transcantation (1)(赤)
インスタント
インスタントかソーサリーである呪文1つを対象とする。それは《稲妻/Lightning Bolt》のコピーになる。それのコントローラーはそれの新しい対象を選んでもよい。
[テストカード - 構築では使用できない。]
ルール上の廃語「立ち消え(fizzles)」が使われている
Trial and Error (赤)(赤)
Elemental インスタント -- Fire
Trial and Errorが打ち消されるか立ち消えするたび、あなたはそれをコピーするとともにそれの新しい対象を選んでもよい。
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。Trial and Errorはそれに3点のダメージを与える。
[テストカード - 構築では使用できない。]
Plane-Merge Elf (4)(緑)
クリーチャー -- エルフ(Elf) 戦士(Warrior)
Landship ― あなたのアップキープの開始時に、あなたはあなたのライブラリーの一番上のカードを見てもよい。それが土地なら、あなたはそれを公開してもよい。そうしたなら、緑の1/1のエルフ(Elf)・戦士(Warrior)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
Kinfall ― クリーチャーが1体あなたのコントロール下で戦場に出るたび、それがPlane-Merge Elfと共通のクリーチャー・タイプを持つ場合、ターン終了時まであなたのコントロールしているクリーチャーは+1/+1の修整を受ける。
[テストカード - 構築では使用できない。]
3/3
一見して鹿っぽいクリーチャーには過剰反応しそうになる
Inspirational Antelope (1)(緑)
クリーチャー -- アンテロープ(Antelope)
Legacy -- ゲームの開始前に、キーワード能力1つか能力語1つを選び下に書く。
あなたが唱える __________ を持つ呪文は、それを唱えるためのコストが(1)少なくなる。
[テストカード - 構築では使用できない。]
1/3
こうしてみると、次元間戦場くらい耳慣れない単語はあまり出ていないように見える。一部のカードはそのまま構築フォーマットで印刷しても良いのではないかと思うくらいだ。
とはいえ、2体のクリーチャーにエンチャントするオーラや、倍にする能力を倍にするカードなど、既存のマジックには見られない能力ばかりで、このカードを使ってゲームができると考えるとワクワクしてくるだろう。
ワクワク要素多数! 郷愁的な収録カードと高水準なカードパワー
ドラフトの風景を見ていると、ワクワクさせてくれるのはプレイテストカードだけではないことがわかった。
1,694種類のカードが収録されているため、往年のカードがたくさん顔を覗かせてくれている。
《勇敢な姿勢》、《堕落した良心》、《瀝青破》、《ファイレクシアの憤怒鬼》、《砕土》、《深き刻の忍者》がひとつのパックから出現。いずれもリミテッドや構築で活躍したカードばかりなので、愛着のある人も多いだろう。強くはないがマスコット要素のあるカード、ポータル版のや《灰色熊》(もちろん旧枠での収録だ)を当てた人もいた。
構築はもちろんだが、リミテッドを昔から親しんでいる人ほど懐かしいカードに再開できる郷愁的な側面もある。これもミステリーブースターの魅力だ。
さらに、先ほどの例示でお伝えしたように、構築やリミテッドで活躍できるカードが多く、リミテッド環境としては全体的にカードパワーが高い。ピックだけではなく派手なゲーム展開も楽しめるだろう。
1つのパックに2枚のレア/神話レアが収録されていることも、派手なゲーム展開を推し進める要素だ。
一見するとこの写真はピック後のカードプールに見えるかもしれないが、これらはいずれも開けたばかりの1つのパックだ。
実はミステリーブースターは変則的な希少度が設定されており、1つのパックから2枚のレアが出現することがある。ピック風景を見ていると、さほど珍しいことではないようだ。
《悪意の大梟》や《剣を鍬に》のようなレア顔負けのパワーカードも収録されているので、「レア級のカードが1つのパックから5枚出現」ということもあり得るだろう。
これだけ強力なパックだと、対戦風景も見ていて楽しいものになる。
『ウルザズ・デスティニー』版《泥棒カササギ》と《死の権威、リリアナ》が対面していたり、
リミテッド番長《石臼》に加え、《ジェイスの幻》が切り札のライブラリーアウトだったり。
《ソリン・マルコフ》《ロクソドンの戦槌》《血の芸術家》が入った赤黒ハスクや、
《とぐろ巻きの巫女》《財力ある船乗り》から4ターン目に《龍王オジュタイ》を着地させるデッキが確認できた。
強いカードがたくさん投入されたデッキが多く、通常のリミテッドよりもエキサイティングなゲームを楽しめるのが特徴だ。
カードがわからない事態多発
一方で、ピック中からプレイ中まで多発していたのは「このカードなんですか?」という質問だ。
それもそうだろう。開けたパックから次元間戦場とかいうよくわからん単語が出てきても困る。
なんといっても、読めたところでわからない。読んでもわからないからジャッジを呼ぶが、ジャッジを呼んでもわからないという事態も散見された。
困るジャッジたち。既存ではない概念を取り扱うカードもある上に、既存カードとの相互作用でさらに意味の分からない状況を引き起こす。そうなればジャッジでさえ頭を抱えるのも仕方がない。
「別のトーナメント担当だったけど、ミステリーブースタードラフトがヤバすぎてヘルプに呼ばれた」というジャッジもいたくらいだ。
とはいえ、「ルールがわからない状況がイレギュラーではない」こと以外は通常のドラフトと同様に進んだ。新感覚のプレイテストカードを使ったドラフトは盛況で、時間が経っても参加者は絶えず、常に3卓程度はプレイされていた。
参加者のデッキ・意見を紹介! カジュアルさがにじみ出る!
今回の記事では、ミステリーブースタードラフト参加者に取材をさせていただいている。
協力していただいたのは、動画配信グループ・EDH会のタケタケさんだ。
(タケタケさん:一番左)
前回のマジック・フェスト名古屋ではコマンドゾーン(統率者戦)にゲスト参加されており、その際に統率者戦の動画配信に関する記事も執筆させていただいた。
今回は普通に遊びに来られており、ミステリーブースタードラフトもその一環とのことだ。
プレイする前から「めっちゃ楽しみです!」と言われていたタケタケさんは、白赤緑のデッキを作成。
《餌食奪いのドラゴン》《復讐に燃えた再誕》《ブラストダーム》《ミラディンの十字軍》《長毛のソクター》《剣を鍬に》、他にも強力カードが目白押しのデッキだ。
もちろんプレイテストカードの《Vazal, the Compleat》や《Gorilla Tactics》も使用されている。
アーティファクト・クリーチャーである(タケタケさんは気づいていなかった)
Vazal, the Compleat (3)(緑)(緑)(緑)
伝説のアーティファクト・クリーチャー -- Phyrexian
Megalegendary(あなたはあなたのデッキにこれと同じカードを1枚だけ入れることができる。)
警戒、トランプル
Vazal, the Compleatは戦場にある他のすべてのパーマネントの起動型能力を持つ。
[テストカード - 構築では使用できない。]
7/7
《ゲリラ戦術》のセルフパロディ《ゴリラ戦術》。イラストがかわいい
Gorilla Tactics (1)(緑)
インスタント
緑の2/2のゴリラ(Gorilla)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
対戦相手がコントロールする呪文や能力によってあなたがGorilla Tacticsを捨てさせられたとき、緑の2/2のゴリラ・クリーチャー・トークンを2体生成する。
[テストカード - 構築では使用できない。]
タケタケさんのデッキに入っているカードはカードパワーが高いものが多い。しかし、2戦目ではなんとそれより強い青黒コントロール(《喉首狙い》《取り消し》《ヒエログリフの輝き》といった強力な呪文を《古術師》《記憶の壁》で回収し、さらにそれらを《グレイブディガー》で回収するデッキ)と対戦してしまい、残念ながら敗北してしまうことになった。
それでも、ミステリーブースタードラフトを楽しんだタケタケさんは笑顔を絶やさなかった。
「ミステリーブースタードラフトはどんな感じですか?」という問いには、やはり「カードパワーが高いですね!」と返してくれた。
タケタケさん「カードパワーが高くて、カジュアルさがにじみ出てるのが良いですよ。なんだこれ!? って思っちゃうようなカードも多いですし、あとはジャッジが困ってるのが印象的ですね(笑)」
ジャッジが困っているのが印象的。確かに、通常のトーナメントではジャッジはとても頼りになる存在で、ルールに関して尋ねて答えに窮するシーンを見ることはあまりない。そんな彼らが自分たちプレイヤーと同じように困っているのを見られるのは、ある意味面白い光景かもしれない。
ミステリーブースターは市販される! ただし、プレイテストカードを楽しめるのはMFだけ!
こんなイレギュラーな光景が多発するミステリーブースター。2020年3月に一般販売が決定しているが、注意したいことがある。
市販用のミステリーブースターはマジック・フェストで配布されるものとは異なり、プレイテストカードが収録されていないことだ。
プレイテストカードを含めたはちゃめちゃなドラフトを楽しめるのは、マジックフェスト・名古屋2020#1のオンデマンドイベントだけ。開催期間の3日間、12:00から17:00までイベントを行っているので、興味を持った人はぜひ参加してほしい。
マジックフェスト・名古屋2020#1 サイドイベントカバレージページ