text by Seigo Nishikawa
ミシックチャンピオンシップ
マジックを楽しむものなら誰もが一度は憧れ、参加を夢見る晴れ舞台。以前はプロツアーと呼ばれ、プレイヤーの垂涎の的となったその煌びやかな舞台の輝きは、名前を変えようとも一切衰えることはない。クリープランドの地にてそのヴェールを解き放った興奮も冷めやらぬまま、早くも4月26日には2回目となるミシックチャンピオンシップがイギリスはロンドンにて開催される。
そんなミシックチャンピオンシップロンドンに、我らがBIGsのメンバーから3人のプレイヤーが参戦することが決定した。本番までおよそ1か月というこの時において、3人は何を考え何を行い、そしてどのように挑むのか。三者三葉のその思いを皆様にもお届けしよう。
斉田逸寛
目の前の試合に勝つために練習を積み重ねた結果、自分とは縁がないと思っていた場所に辿り着けました
-- ミシックチャンピオンシップの参加おめでとうございます
斉田 ありがとうございます。
-- 早速ですが、権利獲得の方法と、その時のフォーマットを教えていただけますか?
斉田 昨年の12月に開催されたGP静岡、ダブルグランプリだったんですけど、スタンダードの方でトップ8に入賞することで権利を獲得できました
-- その時にもインタビューをさせていただきまして「2フォーマットを練習するのは非常に大変だ」という言葉がありました
斉田 そうでしたね。スタンダードに比重を置いてましたけど、レガシーも練習していて......大変でしたね。
-- ミシックチャンピオンシップと言えば、ダブルフォーマットの権化とでもいうべき存在ですよね。どうやって立ち向かいますか?
斉田 いやぁ、そうですね。そもそも普通のドラフトならまだ普段から遊べますしまだよかったのですが、今回プレリドラフトですよね(※ロンドンのドラフトは『灯争大戦』発売前に行われ、所謂プレリリース状態でのドラフトとなる)。これって史上初ですかね?
-- 発売直後ともかく、プレリドラフトは初だと思います
斉田 今までになかったような形式でドラフトをするのが、まさかの人生初のミシックチャンピオンシップ(苦笑)。こうなると元より無茶な話で、そもそも練習できないですし、逆に気負わずにというところですね。むしろ頑張って英語のテキストを覚えるとかそれぐらいしかできることがない。
-- その場で読み間違えないようにしないと
斉田 それぐらいなので、頑張って練習しようというよりは......生きて帰ってこようと。
-- 生きて帰ってくる(笑)
斉田 モダンもロンドンマリガンがありますし、個人的なことなのですが実は自分の意志で海外に行ったことが一度もないんですよね。幼少期に親に連れられて、というぐらいでほぼほぼ初海外旅行。アジアGPも出たことないですし。そんな状態でいきなり十数時間のフライトして、初ミシックチャンピオンシップで、プレリドラフトで、ロンドンマリガンで、もう生きて帰ってこれればそれでいいです(笑)
-- 誰か同行される方とかはいらっしゃるんですか?
斉田 BIGsの加藤健介さんです。今回同行していただけるのは本当にありがたいです。あの方はすごく常識も持ってらして、旅にも慣れてらっしゃるんで、とても頼りになるお兄さんですね。KKさん(=加藤の愛称)と一緒に行けるというのがとても嬉しいことです。
-- 後でお伝えしておきます
斉田 ははは、お願いします。本当に助かっています。
-- さて、初物尽くしということですが、実は今回が初参加なんですよね。
斉田 そうですね。初参加になります
-- プロツアーに出たい、といつ頃から思うようになったのですか?
斉田 もともと競技志向のプレイヤーだったので、思いという意味ではマジックを始めた当初から。でもちゃんと考えるようになったのは、20歳ぐらいのころからですかね。より競技志向が強くなって、国内のGPは全部出るようになりましたし。10年前ぐらいからかな、頭の中に憧れの舞台として常にあるようになりましたね。
-- その憧れの舞台にいよいよ立てるわけですが、静岡でその権利を獲得したとき、正直どのようなお気持ちになりましたか?
斉田 憧れではありましたけど、自分では及ばない域な気がしていたんですね。野球が好きな人がプロ野球を見ているときの感覚に近いのかなと思っていて、その人って別にプロ野球の試合に出たいわけじゃないと思うんですよ。野球が好きで野球用品店をやっていたり、草野球を楽しんでいるからといって、実際のプロ野球に参加したいわけではない。マジックに対してそれに近い思いがあるんですよね。あまりに自分とかけ離れすぎていて、実感がわかない。
-- なるほど、わかる気がします。
斉田 権利を獲得したときも、プロツアーに出れることの嬉しさよりも、グランプリのトップ8に入れたという嬉しさのほうが上回ってました。僕の中ではグランプリでいい成績を収めるというのが、マジックでの常の目標だったので、そこに向けてたくさん練習をしプレイをしていたら、凄く良い成績を残せて結果として付いてきたという感じですね。
-- 実際結果が出て参加権利が付いてきた今、その思いは変わったりしてますか?
斉田 あーどうですかね。実際その空気を味わったら変わるのかな、とは思いますね。仲間内でも「初めてプロツアーに出たけど、やっぱり出ると場の空気というか相手のレベルが違ってゲームとしての楽しさをより実感できた」って人は多いんですよ。正直今はまだ実感はないですけど、その場にいったら変わるのかな。こういう場でプレイし続けたいと思うかもしれない。まずは楽しみたいと思っています
-- その空気に触れるまであと約1か月です。何か準備などはされてますか?
斉田 まだ何もしていないですね。今回のグランプリが終わったら、MO(Magic Online)にもロンドンマリガンが実装されることが決まったので、そこで練習していくことになると思います。モダンは好きなフォーマットということもあるので、練習は重ねたいなと思っています。
-- まだ試したことはないということですが、ロンドンマリガン自体は実際どう思われますか?
斉田 モダンにおいてはかなりデッキ選択に影響を与える、いや与えすぎるかなという印象ですね。ただマジック全体で考えたら、特にスタンダードやリミテッドでは、ロンドンマリガンのほうが従来よりも良い方式なのかなと。実際やってみないとわからないというのが大きいです。
-- 遊びでしたこととかも
斉田 無いですね。7枚仮に取ったらどうなるんだろ、とか思いますけど(笑)
-- 話は少し戻りますが、今回権利を取られました。今まさに権利獲得を目指して頑張っているプレイヤーの方々へ何かメッセージはありますか
斉田 難しいですね。......(BIG MAGIC契約プロの)瀧村さんがよく言うんですけど、マジックって目の前の試合に勝つことしかできないんですよね。最終的に権利を獲得することを目標に置くことはいいのですが、勝ちたい・権利を取りたいというのが前に出すぎるのは余り良くないのかなと。それが変な思考になってしまって「これを勝てばプロツアーだ」とか思ってしまうと、目の前のものが見えなくなる。ただ一つのミスもなく目の前の試合を勝つために練習し、目の当たりにした盤面のことだけを考え続けた結果が今の僕なので。それを積み重ねた先に権利が待っているのかなと、そう個人的には思っています。ですので、気負い続けないというか、出たくて出たくて何年もやって、それでも権利を獲得できなくて悩んでいる方がいらしたら、一度思考を変えて「出たい」という気持ちを前に出しすぎるよりも、一つ一つのプレイを丁寧に進めてみてはどうかなと、思います。
-- 自分から見て、ミスは減りましたか?
斉田 全く思わないです。ド下手糞です
-- ドがつきますか
斉田 この前も下手糞なブロックをして瀧村さんにめっちゃ怒られました(笑)。そのシーンは《争闘+壮大》というカードがサイドから入ってくるということを完全に忘れていて、トランプルダメージを受けて負けたという状況だったんで「何考えてんの?」って状態だったんですけど。そういうミスは無限にしていますね。
-- そういうミスを積み重ねて覚えていって、最後に成功を掴めばよい
斉田 このグランプリ中は「絶対」に忘れません! 100%ケアします......そういうことを繰り返すだけですね。ひたすら練習するしかないですね。
-- 最後になりますが、今までと被るところもあるかもしれませんが、改めてロンドンに向けての意気込みをお願いします
斉田 死なない
-- 死なない
斉田 ほんと楽しむことしかできないですね。もともと話していたように練習型なので、モダンに関しては練習しますがプレリドラフトに関しては練習0になる以上、勝てるとは正直思っていないです。4勝4敗で初日を抜けれたら大満足で帰ってこれるかなと。初めてのミシックチャンピオンシップの雰囲気を肌で感じて、死なずに無事に帰ってきたいなと。
-- 今度のドラフトは皆横一線のスタートになりますよね。
斉田 そうですね。地力が出る。うん、余計だめですね
-- いやいやいや。20年間の経験値がありますよ。
斉田 勝てるわけないなぁ。海外の空気も会場の空気もわからない
-- そこに海外の空気知ってる男(リュウジ)いますよ
斉田 うっす、よろしくお願いします
リュウジ いや、なんとでもなりますよ。一緒に行けるの楽しみにしてますよ。
斉田 本当に、色々な方の助けを借りていかないと生きていけないと思うので、リュウジさんみたいにメンタル強ければなぁ。僕メンタルボロカスなんですよ。
リュウジ 適当で大丈夫っす
斉田 いやぁ、なんか凄いな
-- 何とかなる、と思える人・思えない人っていますよね。本戦前のお忙しい時にありがとうございました。
斉田 こちらこそありがとうございました。
斉田は「自信がない」という言葉を繰り返した。自他共に認める練習の虫だけに、練習できない・慣れていないということに対する怖さを隠すことはなかった。だが私たちは知っている。斉田の持つキャリアに裏打ちされた確かな実力を。一つ一つのの盤面を乗り越えてきた彼の経験を。ロンドンで彼を待つ試練はこれまでとは比較にならないであろう。だがそこを見事に突破し、自分自身をも驚愕させるような結果を残し、
「生きて帰ってきました!」
と堂々報告する斉田の姿を願ってやまない。
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