皆さんこんにちは。BIGsの斉田(@mtgnageya)です。
0.近況報告
先日行われた『日本選手権2020秋』でTOP4に入賞することができました!「応援してくれる人のためにも、活躍したい」という気持ちがあったので、結果が残せてとても嬉しかったです。
来年の2月に行われる『日本選手権2020ファイナル』でも良い成績が残せるよう頑張ります!
さて、そんな『日本選手権2020ファイナル』の出場権を懸けた最後の大会である『日本選手権2020冬』を含め、これからしばらくの間はいわゆる「ヒストリックシーズン」が続きます。
12月12~13日
アリーナ・オープン
12月19~20日
『カルドハイム』予選ウィークエンド
(11月TOP1200権利)
12月26~27日
日本選手権2020冬
1月16~17日
『カルドハイム』予選ウィークエンド
(12月TOP1200権利)
これらの大会に参加予定の方も、これを機にヒストリックを始めようと思っている方にも参考になるよう、今回はヒストリックの環境解説を行っていきます。よろしくお願いいたします。
1.ヒストリックの"今"
現在のヒストリック環境を定義しているデッキは『ゴブリン』『4色ミッドレンジ』『サクリファイス』の3種類です。
・『ゴブリン』は『4色ミッドレンジ』に有利
攻めが多角的で、除去やカウンターで凌ぎ切ることが難しい。
・『4色ミッドレンジ』は『サクリファイス』に有利
従来のデッキパワーに加えて《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》という1枚で相手のギミックを封殺できるカードがある。
・『サクリファイス』は『ゴブリン』に有利
《波乱の悪魔》+《大釜の使い魔》+《魔女のかまど》でマナもカードも消費せずにクリーチャーを倒せる。
ヒストリックは少し前からこの三強状態が続いています。11月に実装された『カラデシュリマスター』の《霊気池の驚異》や、一時停止から帰ってきた《炎樹族の使者》を以てしても、この牙城を崩すことはできませんでした。
どちらのデッキも
《霊気池の驚異》⇒《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
《炎樹族の使者》⇒《エンバレスの宝剣》
という強力な回りはあるものの、逆に言うとそれ以外のゲーム展開では三強デッキに太刀打ちできないのが現状です。
今のヒストリックは「三強デッキのうちの二つには少なくとも五分以上に戦えること」が重要になります。しかしその条件を達成することは困難を極め、環境のその他のデッキは次々と淘汰されていきます。
『青白オーラ』
盤面干渉に長けている『サクリファイス』と『4色ミッドレンジ』の《絶滅の契機》を苦手としています。『ゴブリン』に対しては微有利なものの、後手だったり《上流階級のゴブリン、マクサス》次第では簡単にひっくり返る範囲です。
『無色ランプ』
対ゴブリンの勝率【8%】は衝撃。三強なのでどこか一つに不利なのは仕方ないですが、不利と言っても勝率が【40%】なのか【8%】なのかはトーナメントを勝ち上がるうえで雲泥の差があります。
『サクリファイス』にはクリーチャーを出さない構造上有利なものの、『4色ミッドレンジ』はサイド後の打ち消し呪文まで考慮すると特段有利ということもなく、何よりデッキのキープ基準が《精神石》と《守護像》で8枚しか入っていないので安定性に難あり。
『青白コントロール』
これまたクリーチャーを出さない性質ですが、『サクリファイス』には「ラクドス」と「ジャンド」の2種類があり、「ラクドス」には有利なものの《パンくずの道標》を使用している「ジャンド」は五分を通り越して不利な印象。
冒頭に説明したように『ゴブリン』を除去やカウンターで捌き切るのも難しく、『4色ミッドレンジ』も《思考囲い》の存在が大きくあまり有利とは言えません。基本的には。
ご存知の通り、直近の『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップを制したのはこの『青白コントロール』です。ということは、これがベストデッキでは? と思われるかもしれませんが、厳密にはそうではありません。結果を詳しく見ていきましょう。
2.『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップ
今大会の勝ち組はBrad Nelson選手を筆頭に複数名が使用した、対ゴブリンへの相性改善を図った『4色ミッドレンジ』でした。
従来のリストからの主な変更点は以下の通り。
・《致命的な一押し》4枚 ⇒ 《致命的な一押し》2枚+《取り除き》2枚
対『ゴブリン』において《ゴブリンの酋長》などの3マナ速攻付与クリーチャーをインスタントタイミングで除去できるかは非常に重要。「紛争」の達成は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》まで含めると8枚ですが、インスタントタイミングに限定されると《寓話の小道》の4枚しかありません。
安定して除去できる《取り除き》と散らすことで対応できるシチュエーションが増えます。ゲーム展開によっては当然1マナという軽さが助けになることもあり一長一短のため、バランスよく2枚ずつの採用となっています。
・《霊気の疾風》2枚+フリースロット2枚 ⇒ 《霊気の疾風》2枚+《本質の散乱》2枚
《上流階級のゴブリン、マクサス》への対抗策。《世界を揺るがす者、ニッサ》で構えられる2マナでの対処が望ましく、候補となるのは《霊気の疾風》《本質の散乱》《軽蔑的な一撃》《物語の終わり》など。
三強全てに腐らないことから《霊気の疾風》2枚までは確定枠。しかし肝心要の《上流階級のゴブリン、マクサス》に《霊気の疾風》は「一時しのぎ」でしかないので、こちらが盤面のイニシアチブを取っていない場合は決定打になりません。
確定カウンターとなるのは他の3種。しかし《軽蔑的な一撃》や《物語の終わり》では対象範囲が狭く、『サクリファイス』に効かなかったり『ゴブリン』のもう一つの顔である《ゴブリンの酋長》を絡めた速攻アグロの展開に無力になってしまいます。
一方で《本質の散乱》は『4色ミッドレンジ』同系での活躍は見込めないものの、『サクリファイス』にも『ゴブリン』にも後手で3マナ域との交換が可能。比較的使いやすいと言えます。
こちらもバランス良く2枚ずつの採用。細かいところですが、このような微調整が結果に大きく関わってきていると感じます。
その他にも、前環境のスタンダードで《霊気の疾風》を避けて《世界を揺るがす者、ニッサ》へのプレッシャーになることから採用されていた《破滅を囁くもの》がヒストリックでも顕在だったり、《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》をサイド含めしっかりと最大枚数まで取っていたりといった調整力が光ります。
結果的にTOP8に2名を輩出したこのリストが今回の勝ち組...なのですが、もう一つ同様に独自のチューンによって結果を残したデッキがあります。Autumn Burchett選手の『ゴブリン』です。
主な変更点は以下の通り。
・《アイレンクラッグの妙技》をメイン⇒サイドボードへ
《上流階級のゴブリン、マクサス》の唱えやすさに貢献するので『ゴブリン』同系では強いものの、打ち消し呪文には弱くなります。《本質の散乱》の採用枚数が増えることを見越しての変更だとしたら、先読みの正確さに脱帽です。
・《精神石》と《通報の角笛》をメインに2枚ずつ採用
『ゴブリン』のキープ基準は《スカークの探鉱者》《ずる賢いゴブリン》《人目を引く詮索者》で12枚が基本ですが、より初手のキープを安定させるためには14枚程度が望ましいと言えます。
また、『ゴブリン』の主軸は《上流階級のゴブリン、マクサス》のキャストであるため、土地が詰まってしまうと負けやすい。できれば26枚土地を採用したいが、当然フラッドの危険性は高まります。
そこで白羽の矢が立ったのが《精神石》。キープ基準となるマナブーストで、フラッドした場合はドローに変えられる便利なカードです。
もう一つが《通報の角笛》のメイン採用。サイドボードとしては定番化していましたが、メインに、しかも2枚も採用というのは珍しい構成。
《ゴブリンの戦長》を減らし、クリーチャーに頼り切らないことで除去への耐性を向上させています。
このように書くと《精神石》も《通報の角笛》も優秀で、もっと枚数を増やしたくなるかもしれませんが、それは根幹となる『ゴブリン』デッキとしての《上流階級のゴブリン、マクサス》や《人目を引く詮索者》の威力が落ちてしまいます。
「2枚ずつの採用」というバランスの取り方が理にかなった構築で素晴らしく、結果にも結びついたのだと思います。
そして上記のデッキと比べたとき、『青白コントロール』は優勝したものの、勝ち組とは言い難い結果でした。主な理由は2つ。
・『青白コントロール』の使用者は9名。優勝したバークレイ選手は決勝のダブルエリミネーション含めヒストリック12勝0敗と圧巻のパフォーマンスでしたが、その他の8名の選手の総合成績は15勝25敗で勝率37%と大きく負け越している。
・リストが独自のものではなく、SCG予選などで使われていた一般的なリストの75枚コピーであったこと。そしてバークレイ選手含め、5~6名のメインボードはこのリストからの変更がほぼ見受けられなかった。
以上の点を鑑みると、デッキとして『青白コントロール』がベストだったとは言えないでしょう。
しかし優勝したのは事実。ここからは推測も含まれますが、おそらくバークレイ選手は「本当にミスが少なかった」のではないかと考えています。
『青白コントロール』は入っているカード自体は悪くないものの、デッキの構造が「勝つときは完封して勝つ」ようになっており、何か一つ間違えてしまうと一気に形勢が傾いてしまいます。《神の怒り》をプレイするか、《吸収》を構えるかの判断ミスは許されません。
当然この大会に参加しているのは強者ばかりではあるのですが、どんなに上手な人でも少なからずミスをします。そしてそのうちのいくつかは「ミスしたけど勝敗には響かなかった」となることもあるでしょう。
この『青白コントロール』はその許容範囲が小さい、そんな印象を受けました。敢えて思い切って言いましょう。バークレイしか勝たん。
3.今後の展望
今大会の使用率トップにも関わらず勝ち星が伸びなかったデッキがあります。『サクリファイス』です。
20人『ラクドス・サクリファイス』
18人『ジャンド・サクリファイス(《集合した中隊》)』
17人『ジャンド・サクリファイス(《パンくずの道標》)』
合計で55名(30.4%)のプレイヤーが選択しましたが、どのタイプも大きく勝つことはありませんでした。
原因の一つとしては、三強のはずが『ゴブリン』の使用者だけ少なかったことが挙げられます。『スゥルタイ&4色ミッドレンジ』は使用率28.3%ですが、『ゴブリン』は12.5%と他の2つより明らかに少ないフィールドでした。
相性の良いところが減ってしまっては全体の勝率が落ちるのは自明の理。では何故『ゴブリン』が少なかったのか。先ほどBrad Nelson選手のリストは微調整で『ゴブリン』への相性改善を図っているとお伝えしましたが、『ゴブリン』は固定パーツが多いので調整による『サクリファイス』への相性改善が難しく、それによって選択することを避けたプレイヤーがいたためではないでしょうか。
Autumn Burchett選手の『ゴブリン』は素晴らしいリストで、安定性や総合力が上がっているものの『サクリファイス』への相性が改善されているわけではありません。
もう一つはラクドス、中隊、パンくず、どの構成にしても苦手とする《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》への解答を得られなかったことでしょう。『サクリファイス』側も苦手な『4色ミッドレンジ』への相性改善を図れなかったのです。
しかしメタゲームはこれから日々変化します。『4色ミッドレンジ』が勝ったなら『ゴブリン』は今後増えることでしょう。そうなればすぐにまた『サクリファイス』の出番となります。そうなったときに困らないように、各『サクリファイス』デッキの特徴を把握しておきましょう。
『ラクドス・サクリファイス』
2色でまとめられているため土地からのダメージが少なく、最も『ゴブリン』への勝率が安定していると言えます。緑が無い分、一部のカードパワーが低く『青白コントロール』などへは苦戦を強いられます。
『ジャンド・サクリファイス(パンくず)』
《パンくずの道標》や《フェイに呪われた王、コルヴォルド》によるアドバンテージは『青白コントロール』や『サクリファイス』同系で有利。どっしりと戦える分《初子さらい》などもないので、重要な『ゴブリン』への相性に一抹の不安が残る。
『ジャンド・サクリファイス(中隊)』
上記2種の中間的な立ち位置。『サクリファイス』同系にも《集合した中隊》による《波乱の悪魔》の疑似的な枚数増加、ラクドスよりも『青白コントロール』への耐性も上がり、『ゴブリン』への耐性も落ち過ぎない。
しかし《集合した中隊》というカードを採用するうえで、必要なクリーチャー枚数が確保されているとは言いづらい。どうしても上振れと下振れが発生すると同時に、サイドボーディングも常にその兼ね合いで悩まされる。
どのタイプを使うにしても共通しているのは「メインの《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》はある程度割り切るしかない」ということ。対処しようとすると今の構成では無理が生じるので、2枚程度なら「メインは引かれる前に倒す、サイド後はしっかりと対策する」でも悪くはないと思います。
どうしても対抗したい場合はマナベースや採用カードを見直して《反逆の先導者、チャンドラ》の安定運用を目指しましょう。個人的には今回ヒストリック5勝2敗のRaphael Brade選手のリストは試してみたいと思っています。
『4色ミッドレンジ』と『ゴブリン』は今後の指標となるリストが提示され、お互いを意識し直したり同系で有利を取る構築を探していくことになるでしょう。それについてはこれから自身のチャンネルでの配信やBIG MAGIC LIVEを通じて検証していくことになるので、この記事を気に入って頂けた方は、ぜひご覧になってください。
おわりに
最後までお付き合いいただきありがとうございました。記事を書くのが約2年ぶりということもあり、至らない点も多かったとは思いますが、これから続く「ヒストリックシーズン」の一助となれば幸いです。
質問はTwitterや配信にてお受けしますのでお気軽にどうぞ。それでは。
斉田