By Riku Imaizumi
みなさんがデッキ構築をするとき、始点となるものはなんでしょうか。
「環境の最適解となるデッキを作りたい」。「特定の戦略が好きだから構築したい」。
人によって異なるとは思いますが、その中でも「あのカードを使いたい!」という気持ちはないでしょうか!?
この記事の名前は『お題デッキ構築』。その名の通り、いただいたお題に沿ってデッキを作り、それを紹介していきます!
お題は「あのカードを使って!」でも「〇〇と××のコンボを入れて!」でも構いません。「カウンターバーン組んで!」とかでもOK。フォーマットも基本的には問いません。
読者のみなさまからいただいたお題に応えられるようなデッキを構築していきます。
「好きなカードやアーキタイプがあるけど、なかなか強いデッキが組めない」という人のため、新たなデッキを構築していきましょう。
前回の記事で募集した時には、嬉しいことに数人の方からお題をいただきました。
今回はその中でも一番難しいと思ったものを取り上げようと思います。
今回のお題:《全てを見通す者、アテムシス》
6マナ、4/5、飛行、ドロー能力と特殊勝利能力を持つ『基本セット2020』のスフィンクス。
この特殊勝利能力と言うのが非常に個性的で、
全てを見通す者、アテムシスが対戦相手1人にダメージを与えるたび、あなたはあなたの手札を公開してもよい。
これにより6通り以上の点数で見たマナ・コストを持つカードが公開されたなら、そのプレイヤーはこのゲームに敗北する。
というもの。
この特殊勝利の能力をまともに考えてみると、以下の条件が揃った時に勝利する、と読み替えることができます。
[ 条件1 ] 6マナのクリーチャーを場に出す(≒土地を6枚場に出している)
[ 条件2 ] 6マナで速攻を持たないクリーチャーの攻撃を通す(≒1ターン生き残らせる)
[ 条件3 ] 攻撃が通ったタイミングで手札に点数で見たマナ・コストが異なるカードが6種類ある(=手札が6枚以上ある)
正直に言うと、お題をもらった瞬間「いや無理でしょ」と思いました。
場に出した時点で土地6枚+アテムシス1枚で7枚もカードを使っていて、その上さらに6枚の手札を要求しています。合計13枚もカードが必要な上手札に6種類のカードがないといけないだなんて、もはや勝利させる気がないとしか思えません。赤単なら10枚もあれば4ターン目にゲームを決められるんですから。
しかし、デッキ構築の醍醐味のひとつはどうやって無理を押し通すかということ。にも関わらず、デッキ構築をテーマに据えた記事で「いや無理でしょ」なんて言えるはずがありません。むしろ無理なカードに挑戦してこそ記事としての価値があるというもの。
勝利のために合計13枚必要なはずのカード枚数をどうやってちょろまかすか。そういうことを日々考えて生きていれば、答えはおのずと見えてくるのです。
Phase1:どうやったら《全てを見通す者、アテムシス》で勝てるのか考える
《全てを見通す者、アテムシス》のような、使用にあたって厳しい条件を持つカードを軸に構成する場合、有効な構築方法があります。
それは条件のひとつをフリーパスに近づけておくこと。使うためのハードルが高いなら、デッキ構築の段階で超えておけば良いのです。
もう一度確認しますが、《全てを見通す者、アテムシス》で勝利するにあたって必要な条件は以下の3点です。
[ 条件1 ] 6マナのクリーチャーを場に出す(≒土地を6枚場に出している)
[ 条件2 ] 6マナで速攻を持たないクリーチャーの攻撃を通す(≒1ターン生き残らせる)
[ 条件3 ] 攻撃が通ったタイミングで手札に点数で見たマナ・コストが異なるカードが6種類ある(=手札が6枚以上ある)
この中でも特に達成が難しいのは条件3。私が無理でしょと思った理由の9割くらいはここにあります。
しかし、この条件さえクリアできてしまえばどうなるのでしょうか。
勝利はこの上なく楽になります。単に6マナのクリーチャーの攻撃を通せば勝ちになるのですから。
アリーナを起動して軽く検索をかけたところ、大量にドローするカードは何種類かありました。それならば手札を6枚保持することもそこまでは難しくないかもしれない。
では、保持した手札6枚全ての種類が異なるようにデッキを構築できたなら? そのためにはどうすれば良い?
デッキは恐らく、《全てを見通す者、アテムシス》4枚と、土地26枚程度の構成となるでしょう。残りの枠は30枚。
それなら、残り30枚全てのカードのマナ・コストをひとつも被らせずにデッキを組めたなら? 手札が6~7枚もあれば、《全てを見通す者、アテムシス》で勝利できる可能性はかなり上がるでしょう。
もちろんフリーパスと呼べるほど達成が簡単になるわけではありませんが、現環境のスタンダードには分割カード(《発展+発破》など)のような、「軽く使えるけれど点数で見たマナ・コストは重い」というカードが20種類も存在します。
これらをうまく使えば、きっと《全てを見通す者、アテムシス》での勝利も夢ではないはず。そう思った瞬間、《全てを見通す者、アテムシス》をお題にした記事を執筆することを決定したのです。なんなら「絶対に特殊勝利してやるぜ!」くらい思っていました。(※あとで後悔します)
Phase2:挫折
そんなわけでひとつの回答を出したので、点数で見たマナ・コスト順にカードを並べてみることにしました。
今回のお題は楽勝だぜ! と叫びながらアリーナを起動します。
1分後、そもそも現スタンダードには点数で見たマナ・コストが12より高いカードは存在しないことがわかりました。
冷静に考えると30枚全て異なるマナ・コストのカードにするということは30マナのカードを使うことになるんですけど、そんなカードあるはずないですね......。
はい、ということでPhase2にして挫折です。今回は早いですね。
Phase3:どうやったら《全てを見通す者、アテムシス》で勝てるのか考える・Part2
開始1分にして挫折したので、Phase1で考えた内容から修正していきましょう。
デッキ構築の段階で条件が達成されるようにしておくのはかなり難しいことがわかりました。
残念ですが、もう少し構築の縛りを緩めましょう。
次に焦点を当てたのは、《全てを見通す者、アテムシス》で攻撃した時に(内容関係なく)手札を6枚以上保持しておくことです。
《全てを見通す者、アテムシス》での攻撃と、大量ドローだけを目指します。デッキのカードのマナ・コストはなるべくばらけさせておいて、あとはプレイ(と運)に任せましょう。何回も殴ればいずれ対戦相手は死にます。ライフがなくなったせいかもしれませんけど。
大量ドローできるカードは、先述の通りいくつかありました。その中でも私が目を付けたのは《ドラゴン魔道士》。
攻撃が通るたびに7枚ドロー。《全てを見通す者、アテムシス》と同時に攻撃を通せば、その瞬間勝利できるかもしれないのです!
これはもうコンボと言って良いでしょう。一撃でゲームが決まるかもしれないのですから。
Phase4:残りの条件を片付ける
《全てを見通す者、アテムシス》で勝つための条件のうち、「 [ 条件3 ] 攻撃が通ったタイミングで手札に点数で見たマナ・コストが異なるカードが6種類ある(=手札が6枚以上ある)」はクリア(したことに)しました。
次は残りの条件をどう達成していくか考えてみましょう。
[ 条件1 ] 6マナのクリーチャーを場に出す(≒土地を6枚場に出している)
これ自体はさほど難しい条件ではありません。《ドラゴン魔道士》を使うことや、《全てを見通す者、アテムシス》自体が重いことから、《骨への血》のようなリアニメイト呪文や、《創案の火》のようなマナで得をできるカードを使うと良いかもしれませんね。
[ 条件2 ] 6マナで速攻を持たないクリーチャーの攻撃を通す(≒1ターン生き残らせる)
速攻を持たないために1ターン待つ必要があるのなら、速攻をつけてしまえば良いだけです。
《帰還した王、ケンリス》、《暴君潰し、サムト》、《野生の律動》、《最大速度》など、速攻付与のカードは多数あります。これらからデッキに最も合うものを選んでいきましょう。
Phase5:デッキ構築完了 ~スフィンクスとドラゴンの異文化交流~
というわけで、完成したデッキがこちらです。
デッキ サイドボードデッキリストインポート用(クリックで展開します)
1 魔女の復讐 (ELD) 111
1 戦慄衆の指揮 (WAR) 82
4 秘本綴じのリッチ (M20) 219
1 詭謀 // 奇策 (GRN) 222
4 マーフォークの秘守り (ELD) 53
4 跳ね橋 (ELD) 217
2 虐殺少女 (WAR) 99
4 寓話の小道 (ELD) 244
3 骨への血 (M20) 89
4 湿った墓 (GRN) 259
5 島 (ANA) 62
5 沼 (ANA) 63
4 神秘の聖域 (ELD) 247
4 迷える思考の壁 (RNA) 59
3 全てを見通す者、アテムシス (M20) 46
2 薬術師の眼識 (GRN) 32
1 肉儀場の叫び (RNA) 70
3 進化する未開地 (M20) 246
1 陰鬱な僻地 (M20) 245
4 ドラゴン魔道士 (M20) 135
2 軽蔑的な一撃 (GRN) 37
1 否認 (M20) 69
1 霊気の疾風 (M20) 42
2 裏切りの工作員 (M20) 43
3 悪ふざけの名人、ランクル (ELD) 101
2 害悪な掌握 (M20) 110
2 肉儀場の叫び (RNA) 70
2 暴君の嘲笑 (WAR) 225
デッキの動きは、《マーフォークの秘守り》や《迷える思考の壁》で墓地に《全てを見通す者、アテムシス》と《ドラゴン魔道士》を落としつつ、それらを《骨への血》で場に召喚。速攻を与えて特殊勝利! というものです。
速攻を持たせるクリーチャーには、《跳ね橋》を採用!
2マナ0/4と序盤の壁になりながら、終盤には速攻を付与するコンボパーツに。速攻を付与するカードはほとんど赤いカードだったので3色デッキを考えていたのですが、このカードのおかげで青黒の2色にまとめられました。
そのおかげでこんなカードも使えるようになりました。
墓地からインスタントやソーサリーを回収できる《神秘の聖域》。《迷える思考の壁》などを使用しているとキーカードの《骨への血》が墓地にいくことはしょっちゅうあるのですが、適宜それらを回収させてくれるので、コンボ達成に強く貢献してくれます。
それだけではなく、状況に応じて《肉儀場の叫び》も対象にとれるので、単純に生き延びるためにも使えるユーティリティカードです。
3色以上にすると島を3枚並べるのが難しいのですが、《跳ね橋》のおかげで2色にまとめることができ、《神秘の聖域》の運用が可能となりました。
そして、このデッキには一撃必殺(かもしれない)コンボが存在します。
《戦慄衆の指揮》。ライフさえあれば墓地のクリーチャーやプレインズウォーカーを好きなだけ場に戻せます。
《跳ね橋》がいる状態で《全てを見通す者、アテムシス》《ドラゴン魔道士》を一気に戦場に戻せば、そのまま《全てを見通す者、アテムシス》の能力でもしかしたらゲームに勝てるのです!
正直に言うと最初は《戦慄衆の指揮》で一気に戦場に戻して勝つデッキを組んでいましたが、ライフを支払えない場面が頻発したのでこの構成に落ち着きました。
《神秘の聖域》で必要なときに《戦慄衆の指揮》を利用できるので、1枚入れておくくらいがちょうど良いと思います。
Phase6:ワイルドカードとのお別れ
デッキが完成したのは良いものの、肝心のカードを持っていなければプレイできません。
例によって《全てを見通す者、アテムシス》を所持していなかったので、ワイルドカードを使って作るしかありませんでした。前回もそうでしたが今回もテンションガタ落ちです。
こんな記事書いておいてアレなんですが、《全てを見通す者、アテムシス》は通常のスタンダードで活躍できる類のカードではありません。これにワイルドカードを使うということはいわば虚無に金を投げ捨てるようなもんです。血の涙を流しながらクリックを進めました。
こんなに嬉しくないワイルドカードの使い方ある?
ウワァァァァァァ(声にならない叫び)
写真は撮っていませんが、このあと2回ワイルドカードを切って作成しました。
ちなみにデッキリストには《全てを見通す者、アテムシス》が3枚しか入っていませんが、真面目に3枚がちょうど良い枚数だと判断しています。断じてワイルドカードをケチったわけではありません。
Phase7:実際にプレイする
ワイルドカードの屍を乗り越えて、アリーナの「プレイ」モードへ。
虚無に金を投げ捨てたからにはもう引き下がれません。なんとしても《全てを見通す者、アテムシス》で勝利します。
対戦者は赤黒アグロ。
小粒なクリーチャーたちの攻勢を0/4の壁でしのぎつつ、《魔女の復讐》で《嵐拳の聖戦士》2枚と《忘れられた神々の僧侶》をさばきました。1対3交換できて気持ちよかったのでもう勝った扱いで良くない? と思いました。
上手くクリーチャーをさばいた結果、6ターン目には《骨への血》から《全てを見通す者、アテムシス》が着地!
横には《跳ね橋》が2体おり、準備万端。
続くターンには《奇策》で《ドラゴン魔道士》をリアニメイト!
《跳ね橋》で速攻を付けて攻撃!
この瞬間、《ドラゴン魔道士》で7枚引きつつ、《全てを見通す者、アテムシス》の特殊勝利能力が誘発します。
いきなりコンボが決まったので、正直「勝ったな......」と思いました。
コンボは決まりましたが勝てませんでした。
何を言っているのかわからないと思いますが私もわかりません。7枚の手札を対戦相手に見せびらかしただけで終わりました。
まあそれでももう一回殴ればもうワンチャンスあるしな! なんて思っていましたが、
7枚の手札を得た対戦相手が何もできないはずがないので瞬殺されました。コンボを決めたら対戦相手が勝ちました。なんだこれ。
でもめげません。まだまだ始まったばかりです。
このあと何回も何もできずに撲殺されるのですが、黒緑《魔女のかまど》相手には、なんと4ターン目に《全てを見通す者、アテムシス》が着地!
しかも返すターンに除去をされなかったので、《全てを見通す者、アテムシス》の能力でドローを進めることにします。
すると、その次のターンでは《迅速な終わり》を撃たれました。
しかし、まだ手札にいるぜ! と言いながら2枚目の《全てを見通す者、アテムシス》を普通にプレイ。
秒殺。
だがしかし、手札には《詭謀+奇策》がある! 3回目の《全てを見通す者、アテムシス》!
瞬殺。
《全てを見通す者、アテムシス》が早期に何度も着地したところで意味はないことを悟りました。
青黒ライブラリーアウト戦では、《ドラゴン魔道士》の早期着地に成功しました。
しかし手札にリアニメイト呪文(《骨への血》など)があったので攻撃はせず、耐えます。墓地に《全てを見通す者、アテムシス》がいないのですが、一度墓地に落ちたらすぐにコンボに入れる盤面になりました。
......が、もちろん相手が許してくれるはずもなく《ドラゴン魔道士》は《共に逃走》ですぐに消え去ります。(あとで《秘本綴じのリッチ》で捨てました)
そのまま《正気泥棒》に攻撃され続けることに。
しかし、対戦相手のデッキはライブラリーアウト。もしかしたら待っていればいずれ《全てを見通す者、アテムシス》が勝手に墓地にいくかもしれません。
そう思い数ターンを耐えますが、一向に顔を出さない《全てを見通す者、アテムシス》。一方4枚墓地に落ちる《ドラゴン魔道士》。どうしようもない。
しかし、自分のデッキがなくなりそうな瞬間、対戦相手のライブラリーも減っていることに気が付きました。
《ドラゴン魔道士》の攻撃が通れば、1体につき7枚引かせます。4体の攻撃が通れば28枚。
つまり、(《跳ね橋》によって速攻をつければ)いきなり28枚もライブラリーを削ることができるのです。
「もしかしたら大逆転勝利なんじゃねえの?」。そう思った私は《戦慄衆の指揮》で《ドラゴン魔道士》4体を場に戻しました。
28点ダメージで負けました。
「プレイ」モードを始めてから、もうこの時点で3時間を経っていました。本当に一勝もできず、MTGアリーナのデイリー報酬すらもらえていませんでした。
このへんでもう無理では? と思い始めるのですが、白緑アグロを相手にしたとき、再びコンボが決まりました。
《跳ね橋》が場にいて、土地は8枚。手札には《骨への血》が2枚。
もちろん墓地には《全てを見通す者、アテムシス》と《ドラゴン魔道士》がいます。満を持してのコンボ達成にテンションブチ上がりです。全軍突撃! と言いながら攻撃宣言。
このあと本当に全軍で突撃してしまって《マーフォークの秘守り》が無駄に死にました
さあ、待望の、《全てを見通す者、アテムシス》&《ドラゴン魔道士》の効果が誘発!
2時間ぶりにまともに誘発したアテムシス。さあ、この記事を終わらせるため、綺麗な勝利をもたらして――
くれませんでした。普通に手札を見せびらかしただけで終わりました。
Phase8:このあと2時間くらい粘りました
本当の本当にまともに勝てない《全てを見通す者、アテムシス》デッキ。上手く効果を誘発させてもマジで何も起こりません。手札を見せてる分むしろ不利になってます。
《ドラゴン魔道士》も同様で、だいたい対戦相手に手札を与えて返しのターンで死にます。死ぬのが《ドラゴン魔道士》ならマシですが、死ぬのはたいてい私です。
構成が悪いのかな? と思いデッキコンセプトごと変えるなどして2時間ほど粘るも、このあとは《全てを見通す者、アテムシス》の誘発すらできませんでした。
記事を書くと決めた際には「絶対に特殊勝利してやるぜ!」と考えていましたが、終わった今なら言えます。
いや無理でしょ。
お題デッキ構築、第2回でした。結局勝てるところを見せられずふがいない限りです。(でも無理だと思います)
「お題」は随時募集中。私のTwitterアカウント(@kuiroiro)まで、リプライでもDMでも構いませんので送信してもらえると喜びます。
お題は何でも受け付けます。「あのカードを使って!」でも「〇〇と××のコンボのデッキを組んで!」でも構いません。「カウンターバーン組んで!」のような、特定のデッキタイプのリクエストでもOK。多少無茶ぶりな方が記事になりやすいかもしれません。
フォーマットも特に問いません。スタンダード、モダン、パイオニア、なんでも大丈夫です。ただしスタンダードならアリーナで回せる可能性があるので、実戦も交えて構築できると思います。
それでは、また次回!