Text by Moriyasu Genki
先日開催された『BIG MAGIC Open Vol.10』。
その裏で開催されていた『ドラキチ合宿』の様子をお伝えしたい。
4.『BIG MAGIC Open Vo.10』ドラフト合宿
まずは河浜 貴和というプレイヤーについて、あらためて紹介したい。
1.『河浜 貴和』について
BIGMAGICユニフォーム契約・BIGsのメンバー、河浜 貴和[Kawahama Yoshikazu]。
既婚者。元・バンドマン。最近は麻雀もたしなみはじめた様子。
MTGにおいてはプロツアー・タルキール覇王譚出場やBIG MAGIC Invitational Vol.1優勝などの戦績を誇る強豪・競技プレイヤーのひとりだ。
[グランプリ・シンガポール15優勝]の人見 将亮や言わずとしれたリュウジこと村栄 龍司らとともに、モダン・シーンの意見交換を取り交わす[親研ゼミ]にも参加している。
最近では、『ドミナリア』発売前に初級者向けのリミテッド記事[今夜勝ちたい『ドミナリア』プレリリース]を寄稿し、好評を博している。
主催・所属コミュニティをバランス良くまとめることが特徴の、"明るく快活なお兄さん"といったキャラクターだ。
平日にもかかわらず徹夜での遊びを敢行するような無限のバイタリティと幅広いアンテナがそれを実現させている様子だ。
BIGsメンバー紹介にもあるように、"マジック・エンジョイ"集団『チーム豚小屋』の創設者・まとめ役でもある。
この『チーム豚小屋』という集団についても、多少の説明をしておこう。
2.『チーム豚小屋』について
"エンジョイ"(「楽しもう!」)と自称する集団だが、彼らを見かけるのは競技シーンの会場であることが多い。
[プロツアー・戦乱のゼンディカー優勝]BIGMAGIC所属プロ・瀧村 和幸を筆頭に、チーム・メンバーは豪華絢爛だ。
田中 陽、松原 一郎、加藤 健介、光安 祐樹ら『BIGs』メンバーも多数在籍している。
このあたりのメンバーの紹介は、PTQ(プロツアー予選)突破者を多数輩出し『チーム豚小屋・飛躍の年』と呼ばれた14年ごろとそう大きくは変わらないかもしれない。
ただ、彼らは一時だけではなく、『本物』だった。
勢い良く飛んだあとも18年現在に至るまでグランプリ入賞・プロツアー出場を継続して果たすプレイヤーが続出した。
直近のグランプリ・京都2018のチーム構築戦でも田中 陽、加藤 健介は同じチームでトップ4に入賞しており、マジック25周年を記念する特別なプロツアーの参加権利を獲得している。
実力をメキメキと伸ばし、発揮しつづけるなかで彼らを取り巻く環境は変化していった。
なにより15年ごろ実施されたPTQからPPTQ(プロツアー予備予選)への制度変更が、コミュニティの在り方にも変化を与えていったようだ。
3.『ドラフト・コミュニティ』という側面の発達
具体的には、ブースター・ドラフトをプレイすることを中心にしたコミュニティの発達だ。
PPTQ会場で、或いは近隣のスペースで、彼らはブースター・ドラフトにいそしんでいた。
『少し遅めの時間からの会場近くで行う私的なドラフト』であれば、既にプロツアー出場資格を持つ者も早々にPPTQを敗れた参加者も、該当フォーマットの構築デッキを持ってきていない者も、等しく参加できる。
事実、このドラフトの卓にはレベル・プロの姿も多くあった。
こうして元々の河浜自身の広いコミュニティはチーム豚小屋の枠をこえて、関東最大のドラフト・チームを作り上げていた。
(このドラフト・コミュニティ自体は必ずしも河浜だけが主催する卓だけではなかったが、直接的・間接的にドラフト卓の成立の為のメンバー呼びかけなどを最も精力的に行っていたように思う。)
ドラフトを愛してやまぬプレイヤーたち。
河浜曰く「カードを持ってなくても、即席でデッキを組んで遊べる『ブースター・ドラフト』は、とにかく楽しいんです!デッキを組み上げるためには『ドラフトならではのテクニック』と、『セットごとに存在するテーマを理解すること』の両方が必要で、それらを深く掘り下げている上手い人(たち)とやるのが特に、"最高"です。」
ドラフトを深く掘り下げるほどにドラフトを愛しているプレイヤーたち。
漫画『釣りキチ三平』の要領で『ドラキチ』とつけられたその名前は、パーティの全体を示す言葉でもあり、そこに参加するプレイヤーたち一人ひとりの性質のことでもあった。
この『ドラキチ』は日々規模を成長させてゆき、ついにはドラフト合宿なる企画が上がるまでになった。
4.『BIG MAGIC Open Vo.10』ドラフト合宿
元々新セットの発売週の土日には『晴れる屋トーナメントセンター』を中心に2卓立つほどの人数が集まり、朝9時からたっぷり12時間以上もドラフトを繰り返しプレイしていた『ドラキチ』たち。
今回、『ドミナリア』発売週の土日に開催された『BIG MAGIC Open Vo.10』会場付近でも、彼らはドラフトを遊ぶ予定を立てていた。
ゴールデン・ウィークが重なったことで、『ドラキチ』参加希望者は普段以上に多いことが予想できたことから、河浜は今までの『ドラキチ』から更に一歩すすめたコミュニティのあり方を示した。
合宿の計画・開催だ。
カードショップの開店・閉店時間にとらわれず、無限にドラフトをむさぼるための合宿だ。
もちろん日中は『BIG MAGIC Open Vo.10』本戦に参加する予定のプレイヤーも多く、合宿期間中フル回転―...という形にはならないはずだが、金曜夜から月曜の朝まで計三泊の長期合宿を打ち出した。
会場からほどなく近いところにある「16人同時宿泊できるゲストハウス(三階建て一軒家)」の日程をおさえられたことが、最大の要因でもあったようだ。
(石川町駅から徒歩圏内)
参加者希望者は河浜が概要をツイートした即日中には20人を数え、定員となった。
5.『ドラキチ』合宿 四泊・総参加者数 30人超
三泊という合宿としては決して短くない期間のなか、遠征勢の姿もあり「金夜のみ参加」や「土日のみ参加」といった面子も多く、各日参加者は入れ替わりが多いようであった。
河浜は細かく調整して各日2卓成立するように16人参加を割らないように追加募集・人数調整を都度図った。
これらの他にもゲストハウス側とのやりとり、料金の設定などなど河浜の主催としての仕事量の多さは図りしれなかったが、普段からの『ドラキチ』のセッティングでの手馴れも去ることながら、なにより河浜自身が楽しそうに話を進めていたのが印象的であった。
結果としてゲストハウスを訪問した『ドラキチ』メンバーの総数は30人を越え、BMO翌日の月曜・日中もドラフトできる目処が立ったために最終的には火曜チェックアウトの最大4泊となった。
河浜個人の主催ということもあり、スポンサー会社や所属の垣根を越えた競技プレイヤーたちが結集した。
もちろんBIG MAGICプロ、BIGsも多数参加している。
・松本 友樹
・田中 陽
・加藤 健介
・松原 一郎
・簗瀬 要
・吉森 奨
・加茂 里樹
遠征勢として広島から野稲 和弘、大阪から藤本 岳大らも一時参加した。
参加者のなかには『BIG MAGIC Open Vol.10』本戦優勝を果たした殿堂・三原 槙仁の姿もあった。
後日Hareruya Hopes加入の報があった、同BMO10本戦Top8入賞・宇都宮 巧も本戦終了後に訪れている。
そのHareruya Hopesからは他に齋藤 慎也、鈴池 史康らもいた。
特に鈴池は発売日にあって『ドミナリア』1カートン(6ボックス)を代理購入して用意・持ち込みするという大役も果たしてくれている。
鈴池は先に述べたグランプリ・京都2018におけるBIGs 田中・加藤が組んだチームの3人目でもあり、普段から深い交流があることからも全体の流れをサポートするように動いていた。
・高尾 翔太
・佐々部 悠介
・仲田 涼
・木原 惇希
強豪プレイヤーも連泊していた。
BMO後に開催された(『ドミナリア』リミテッド・フォーマット)[グランプリ・北京2018]へ参加する予定であり、ここを最適な練習場所だと踏んだ者も多かったようだ。
そんななか、河浜は「予想外だった」と口にしていた項目があった。
6.河浜の誤算・『ドラキチ』の熱意
河浜「金曜の夜は(BMOの)前乗り宿くらいの意味合いなので、ドラフトは計2卓立つかどうかくらいかな。日曜の夜も帰りはじめる人も多いから、ドラフトが集中するのは土曜の夜だと思う。」
と、事前に河浜は予想していたのだが、これは明確に大きな誤算となった。
まず金曜の夜。各地からの参加とあって集合は順次という様子であったが、取材参加していた筆者を含めてゲストハウスに8人が揃った瞬間には、もう既にドラフトがはじまっていた。
筆者が「9人目がそろそろ到着する連絡あるので、(自分が入らない形で)ちょっと待ちませんか?」と提案したが、「いま8人いるから、やろう!」と熱意をみせたのは加茂であったか、鈴池であったか。
「目と目があったらポケモンバトル」―...ではないが、実際そのくらいの勢いで8人が揃った瞬間にドラフトが成立しつづけるほど、全員がやる気に満ちていた。
半端に人数が余ったときもドラフトの観察や考察、スタンダードの練習などにつとめて、全員が同じ方向を向いてマジックにのめりこんでいた。
それは最初の金曜夜だけでなく、土日月を通して一貫していた。
入浴や睡眠、食事などもあえて統一するような時間はとらず、可能な限り多くのドラフトが立つことを常に意識して動いていた様子だ。
こう表現していくと「全員がひたすらドラフトの為だけに無駄なことも話さない」―...といった印象を受けるかもしれないが、
実際はアルコールを手にする者や暑さから半裸になる者らが賑わい、開催期間中、寝静まるまで誰かの笑い声や談笑が絶えることはなかった。
真面目に。楽しく。マジックを。
河浜がチーム・豚小屋を表現した"マジックエンジョイ"の言葉は、『ドラキチ』合宿を再び言いあらわした。
ほぼ全員が参加しているグループLINEにドラフト・デッキを戦績とともに挙げ続けるという形でリストの共有も行い、
楽しいだけでなく研鑽の場としても効率よく機能していた。
7.総ドラフト回数 26回
土日の日中はほぼ全員がBMOに参加していたというスケジュールを踏まえた上で、4泊で総ドラフト卓数は記録できている限り26回にのぼった。
討論の為に別に時間を割いたりはせず、プレイ中や卓と卓の合間に互いの経験した情報を交換し、時間の限り切磋琢磨してゆく形であった。
ザックリと毎日7卓近く成立しており、入れ替わりも含めて、参加日には全員が3卓ずつは参加している計算だ。
事実、最後のドラフトの記録はチェックアウト当日・火曜の朝5時ごろで、金夜から火朝までめいっぱいの時間を使ったことになる。
また卓のすべてが8人ドラフトであり、26×3×8の計624パックを消費した。
17箱。
約3カートンだ。事前に鈴池が用意する1カートンで賄えると試算していた河浜の回数を、しっかり3倍上回った。
こうした想定外の量となったパックの購入や、他にも食材の共同購入など細かく金銭のやりとりもあったが、河浜のノウハウによっておおむねつつがなく管理・運営できていたようだ。
通常、こうした実施回数の読みにくいイベントは予想より回数が少なくなればトラブルは起きにくく、予想より回数が増えればその分だけ読みにくいトラブルが起き易いものだが、4泊を通してほぼ問題らしい問題は生じなかったようだ。
(徒歩10分のBMO会場に行く。といってゲストハウスを先発したプレイヤーが、何時間たっても会場にあらわれずに、みなが心配する。などの些細なアクシデントはあったようだが。)
8.合宿を終えて
合宿後、河浜はきたるグランプリ・千葉2018に向けて、新たな合宿の予定を打ち出した。
それは今後の展望の発表だけではなく、今回のイベントの成功も意味している。
そんななか、 河浜は『ドラキチ』成立のきっかけについても話しをしてくれた。
河浜「ドラフトをするためには人数が必要ですから、"声をかければすぐ集まってくるドラフト好きなやつを集めよう!"と思ったのが、『ドラキチ』のはしりです。
当初は新セット発売時や大会の裏でとにかくドラフトをしつづける集団という形でしたが、今ではプロツアーやグランプリに向けて練習したい人たちの道場がわりにもなっています。」
河浜の調整と、熱意ある『ドラキチ』の面々の協力によって成功した『ドラキチ』合宿。
今回のような規模で今後も継続して開催されるということになれば、すぐにでも競技シーン全般に影響を与えるコミュニティ・イベントとして認識されてゆくことになるだろう。
河浜「プレミアイベントに関係なく、毎セットひたすらドラフトしつづけている『ドラキチ』軍団は猛者揃いで、そうした駆け込み寺としてみても練習相手として不足ないですからね!」
そして、"マジックエンジョイ"。『チーム・豚小屋』からはじまり『ドラキチ』合宿を通して、河浜の思いは拡大して伝わってゆく。
河浜「ドラフトには、マジックの面白さがつまっています。普段構築戦では使わないカードで遊ぶことは、新たな発見もありますし、
マジック自体の"地力"もつきます。仲良しな友人とわいわい遊ぶのも良いですし、ドラフトでつながる新しい友人の輪もあります。」
次回のグランプリ・千葉2018での開催の際にも取材して様子をお伝えしたい。
最後に、河浜から読者のみなさんへの一言をもらった。
河浜「『コミュニティを作ってドラフトをする』これ最高なので、皆さんも地元でぜひチャレンジしてみてください!」
(追記.ドラフト・3-0アーキタイプ記録)
最後に、ドラフトの内容についても触れておこう。
今回の『ドラキチ』合宿で3-0したアーキタイプを簡単に紹介して締めくくりたい。
緑黒トークン 5
青白歴史的 5
白単(タッチ緑)3
赤青ウィザード 3
白黒歴史的(タッチ青)3
赤白 2
緑白 1
赤緑キッカー 1
青黒系コントロール 3(3色目 白、赤、緑)
計26
《密航者、スライムフット》を擁する【緑黒トークン】と、既にスタンダードでも活躍する《艦の魔道士、ラフ・キャパシェン》を中心とした【青白歴史的】がともに5卓で3勝しており、勝ち頭のアーキタイプとなった。
次いで【白単】と、それに近いタッチ緑(《ラノワールのエルフ》と《シッセイの後裔、シャナ》のみなど)、【緑白】が合計4勝。
【赤白】【青白歴史的】【白黒歴史的】も白いビートダウン戦略デッキとして数えると、計14デッキを数え、半分を上回る。
この合宿では圧倒的な白の強さが浮き彫りとなったが、はたしてこれからどのように研究は進んでいくのだろうか。
プロツアーの場でそれが明らかになるのが楽しみだ。
マジック:ザ・ギャザリング『ドミナリア』Bigweb特設サイト