皆さんこんにちは、BIG MAGICのサイト上では初めまして、佐藤レイです。これからこちらにてレポート記事などを書かせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
BIG MAGIC所属プロとなっての初陣、グランプリ・名古屋2018。そこで最高の結果を残すことが出来たので、今回は優勝に至った経緯を書かせてもらいます。
【チームリミテッド&チーム紹介】
今回のグランプリのフォーマットは発売したばかりの『ラヴニカのギルド』を用いたチームリミテッド。
左側に座っていた行弘賢(Dig.cards所属)は、間違いなく自分が出会ってきたプレイヤーのなかでも最高レベルの技術を持つリミテッダーだった。
サイドボーディングを含めたデッキ構築のセンス、ゲームプランの組み立て方、定石にとらわれないリスクを取ったプレイング、そのどれもが相手を凌駕していて、どんな対戦相手よりも、まず隣にいるぼくを魅了した。
ゲーム中ぼくはプレイに関して、彼ならどうするかを何度も聞いた。自分がこうするであろうとほぼ決まっているところにおいてさえ、確かめるように、盗み取るように。
右側に座っていた山本賢太郎(Team Cygames所属)はどこまでも謙虚で冷静だった。機械だってもっと尊大なのではないかと思わせるほど、緻密で繊細で、どんなにタフなスポットでさえ、それを当たり前にやってのけた。自身の粗雑さが目立つなか隣の彼がいかに気を配ってプレイしているかを知った。
山本はマジックで知り合った十年来の友人だが、ほとんど共にマジックをすることはなくプライベートで遊ぶことが多かったので、正直ただの飲んだくれだと思っていたがどうやらそうではなかったらしい。
チームリミテッドほど強者が安定して勝つフォーマットはない。
実際700弱のチームが参加するなか、殿堂プレイヤーである実況の藤田剛史さんは我々を優勝候補筆頭に上げており、そのとおりに我々は優勝した。準決勝、決勝の対戦相手は今までのマジックシーンで幾度となく顔を合わせたことのある強豪メンバーで、チームドラフトはさながら同窓会のようだった。
過去の大会や海外の大会の結果を見ても同様の結果が見られるだろう。
選択以外に抽選もあるこのゲームにおいて、なぜそのようなことが起きるのだろうか。
なにが上級者と一般的なプレイヤーとの決定的な違いなのだろうか。
その問いの全てにこの文章で答えることはできないが、今回優勝チームの一員として、自分たちがおそらく他のチームに比べてエッジがあったと思われる点をシチュエーションごとに解説した。自分たちなりに考えたところ、工夫したところを書くことにより少しでも上達を目指す人に役立てればと思う。
【チームシールド 初日】
・事前準備 ~決められることを決めておく~
我々はそれぞれ好きな色や得意なアーキタイプから、あらかじめ構築をする前段階で誰がどのようなデッキをプレイするか話し合って決めていた。
具体的には行弘が緑系のデッキ(ゴルガリ、セレズニア)、ぼくが赤系のデッキ(イゼット、ボロス)、山本が青系デッキ(ディミーア)を使うことにしていて、デッキ構築の際にL字に座ったときの席順やカードの配置もあらかじめそれに沿って設計していた。
このような準備ができたのは『ラヴニカのギルド』が5つの2色からなる組み合わせ(ギルド)を基にして構成されていて、その結果組めるデッキのカラーコンビネーションが限られているからだ。
普段は構築時間が足りないことの多いチームシールドだが、これにより今回はスムーズに構築することができた。
ただそれは他のプレイヤーにも言えることで、この環境においては多くのプレイヤーが大きな構築ミスをしづらい。通常チームシールドで一番困難なのは、各々の色選択だからだ。よって、チームリミテッドは強者が勝ちやすいといったものの、普段よりもデッキ構築において上級者が得られるエッジは少ないだろう。
そのようななか、我々は幸運にも数回練習してきた中でもダントツに強いプールを引くことができ、当初の予定通りのカラーコンビネーションのデッキを構築することができた。
・構築 ~強いデッキと戦うことを意識してデッキを組む~
A. 行弘賢 ゴルガリタッチ白
B. 佐藤レイ イゼット
C. 山本賢太郎 ディミーア
それぞれが強力な複数枚のレアを所持し、三人の誰しもがエースといえるデッキに仕上がった。
3人の色の編成はおそらく一般的かつ理想的な組み合わせだろう。5つのギルドを3人で使うということは、どの色かを2人で分ける必要があるのだが、この環境は青が一番強力なのでそれを2人で分け、ディミーアとイゼットのデッキが組むことができるというのはもっとも健全な状態といっていい。
そうなった場合残りの一人は緑を使ったゴルガリ、セレズニアが混ざったいわゆるアブザンカラーのデッキになることが多く、例に洩れず今回行弘の使用しているデッキもゴルガリにセレズニアの強力なカードだけタッチしている構成になっている。
Aの行弘が使用したゴルガリタッチ白ではマナカーブを低めにすること、《押し潰す梢》、《クロールの群れ》などを投入して飛行に一方的に負けないようにした。
Bのぼくが使ったイゼットデッキはクリーチャーの数を増やしすぎない、トリッキーな動きをしたビートダウンとして素早く勝つのではなく、デッキパワーの高さを活かし、より長期戦、コントロールデッキのように動けるようにした。
Cの山本のディミーアに関しては2枚あった強力なレアである《血の刺客》を最大限に使えるよう《壁過の達人》、《眩惑の光》といったカードを優先的に採用した。諜報の効果で《血の刺客》が墓地に置かれたときライフを支払えば回収できること、《静める者、エトラータ》の能力にスタックしてバウンスを打つことによって再利用できることなどを覚えておくといい。
いずれのデッキも普段のシールドやドラフトなどのフォーマットに比べ、強力なデッキと対戦するということをふまえて構築した。リミテッドといっても使用されるカードの範囲がフォーマットごとに異なるということを意識する必要があった。
カラー選択がいつもよりも簡単だからといってカード選択で差がつかないわけではない。
チームシールドはデッキを3つ構築する必要はあるものの、普段のシールドの倍のプールを用いてデッキを構築するので、基本的に使用されるデッキのレベルは他のリミテッドフォーマットに比べて高い。
それによって普段のシールドやドラフトで勝てるデッキでもチームシールドで勝てるとは限らないし、それに対応するべきだ。
例えば対策のしやすい軽いビートダウンタイプのボロスやイゼットは、相手のサイドボードが多いので勝ち切るのは難しくなっているし、相手は普段よりも強力なアンコモンやレアを使用してくるので《罪人逮捕》や《軽蔑的な一撃》の使用頻度は上げるべきだろう。
・プレイング ~見ていないものに対応するレンジを広げる~
これは構築するときだけではなく、プレイをするときにも念頭に入れておかなければならない概念である。
使用できる強力なカードが限られているリミテッドにおいては、まず色が合っていれば入ることが決まっているカードが多い。あなたがイゼットで《直流》をサイドボードに余らすということはあり得ないはずだ。
普段のシールドの倍のカードプールでデッキが組まれているということはどういうことか?例えば相手がディミーアだったとしたら、当たり前だが相手のデッキには《巧みな叩き伏せ》は普段のシールド戦の倍入っているだろう。それはつまりもうデッキに入っていないほうが珍しいということだ。
少なくとも、コモンに関しては常に見ていないカードについても警戒するべきだ。ボロス相手に1戦目飛行クリーチャーを1体も見なかったとしても、飛行対策をサイドインするべきだし、あなたがコントロールデッキを使っていて青いデッキと当たったのだとしたら、サイド後は複数枚のカウンターを投入されていることも頻繁にあるだろう。
対応するレンジを広げなければならないのはコモンに限ったことではない。
ドラフトにおいて見ていないカードを過度に警戒することはミスプレイになりかねないが、例えばチームシールドにおいては相手の赤いデッキが不自然なまでにライフを攻めにきているのであれば、《逃れ得ぬ猛火》を普段よりケアしてプレイしたほうがいい。緑相手であれば《力の報奨》があるかもしれない。
つまり対戦相手の動きや構成により敏感たれ、ということだ。それが不自然なものであるならなおさら。
そんなことを意識しつつプレイして、初日は個人7-0-1、チーム7-1で2日目に進むことになった。《つぶやく神秘家》を《模写》でコピーすることによって3体並べて青い鳥をたくさん出して気持ちよかった。
【GP2日目 チームシールド】
全てが順調に思えた初日に比べて、2日目のプールは一転我々を不安にさせることになった。そもそも使えるレアが多くなく、かつ使えるレアはボロス、セレズニアに偏り、イゼットを組むことが困難だったためだ。
青が極端に強いこの環境のチームシールドではディミーア、イゼットのどちらかが組めなかったとき、途端に難航することになる。
A.行弘賢 セレズニアタッチ黒
B.佐藤レイ ボロス
C.山本賢太郎 ディミーアタッチ赤
・構築 ~3つのデッキのバランスをとる~
攻め方が単調で対策がされやすいボロスは、なるべくならば組みたくないアーキタイプだったが、ここまでカードが揃っているのであれば組まざるを得なかった。コモン、アンコモン、レア、神話レアと全てのレアリティで強力なカードがあり、まず真っ先に構築することになった。
次にそれがどれくらい強いのか、どこまで弱くできるのか、を検討した。
チーム戦は3人のうち2人が勝たなければ、勝利とならない。
したがって1つの最強のデッキがあっても残りの2つが弱ければ何も結果を残すことができない。今回のように特定の色にカードが寄っている場合、その色のカードをどこまで他のデッキに渡すことができるかを考える必要がある。
プールにもよるが、ほとんどのシチュエーションにおいて、1つでも全然勝てそうにないようなデッキを用意するべきではない。たとえ残り2つがかなり強くなったとしても、そこを「勝ち縛り」にしてしまうようなアプローチでは勝ち続けるのは難しいだろう。いつ誰がより強いデッキに当たるかもわからないし、いつ誰が事故って負けてしまうかもわからないからだ。
構成上一番強くない「サードデッキ」ができてしまうのは仕方がないとして(今回の構築では行弘のデッキがサードデッキになる)3人のデッキがなるべく戦えるよう、注意深くカードを分配していくことにした。
そうしたアプローチのなかで、異彩を放っているのはCの山本のディミーアタッチ赤だろう。一見キレイなディミーアに1枚だけタッチされている《溶岩コイル》には禍々しささえ感じる。
もちろん《溶岩コイル》はBのぼくが使用したボロスにとっても強力なカードでもあった。
それでもCのディミーアに入れたのは、若干除去が足りず、《任務説明》、《つぶやく神秘家》など相性のいいカードが入っており、タッチするのが困難ではなく、まだBのボロスを少し弱くできると判断したためだ。
実際にこの判断が功を奏し、山本の勝利によって我々は優勝を決めるための上位4チームによるプレイオフに進むことができた。
・プレイング ~相手のタッチしている理由を考える~
2日目の何戦目かは覚えていないが、ぼくはコントロールタイプのイゼットと対戦していた。相手のデッキはただのイゼットではなく、《ボロスのギルド門》を使用し、白をタッチしていた。
ぼくは相手のチームメイトが使用しているデッキのカラーリングを確認し、ボロスを使っているのを見て、ある確信に近い思いを抱いていた。
チームシールドにおいては、同じプールで複数のデッキを組むという制約上、ときには見ていない特定のレアにさえも対応すべき状況がある。相手がメインカラーではないギルド門をプレイしているとき、そこには必ず理由があるのだ。
この状況では対戦相手のデッキにはほぼ《轟音のクラリオン》が入っているだろう。もしかしたら入っているかもしれない、ではない。ほぼ入っている、だ。
チームメイトにボロスがいるにも関わらずイゼットが白をタッチする理由は極めて限られている。ほかにも《裁きの一撃》、《反応/反正》、《完全/間隙》などが使用されているかもしれないが、それらはボロス単体でも強力なカードであり、イゼットがそれだけのためにタッチしている可能性は《轟音のクラリオン》に比べてかなり低い。
もちろん全てのタイミングでケアしつつ行動するかは別だし、レアケースで我々の《溶岩コイル》のように単体除去だけタッチしていることもあるが、それでも相手のデッキに入っている確率のほうが断然高いはずだ。
相手が置いてきたランドにも注視し、そのカードが使われているということはどんなカードが相手のデッキ入っているであろうかを想像し対応しよう。
例えば相手のディミーアがタッチ緑をしていたら《席次/石像》か《採取/最終》、《ゴルガリの女王、ヴラスカ》、《地底王国のリッチ》、さらには門を多くとっていることから《門番のガーゴイル》も入っているかもしれない。
少なくとも普段のディミーアに対してより、さらに《軽蔑的な一撃》をサイドから入れよう、あるいは大事な場面まで打たずに取っておこうなどとプレイを変えられるかもしれない。
そんな相手のタッチしているカードについて意識しつつプレイして、2日目のチームシールドは個人3-2-1,チーム4-1-1でトップ4に残り、チームドラフトへ進むことになった。強力なボロスを使用したのに思うように勝てなかったが、チームメイトがカバーしてくれて助かった。
【GP2日目 チームドラフト】
・ピック ~限定された状況に対応する~
チームドラフトは多くのマジックプレイヤーにとって馴染みのないフォーマットだろう。
通常のドラフトといくつか異なる点があり、それによって違った戦略を取ることとなる。
以下が主な異なる点だ。
・卓内の総人数が少ない(8人→6人)
・上下のプレイヤーはどちらも敵でその隣のプレイヤーは味方である
・対面のプレイヤーと必ず対戦する(それ以外のプレイヤーとは対戦しない)
全体的に卓内のデッキパワーが下がり、ときには自分のデッキが弱くなろうとも上下のプレイヤーのデッキがより弱くなるのであれば、それが肯定される。上下との協調こそが何よりも大事といわれているブースタードラフトとはそこが一番の差だろう。
トップ4に残ったあと、3人で相談し即興でチームドラフトの戦略を練ったところ、下のプレイヤーに色を被せにいくのがもっとも有効な戦略だという結論に至った。
あえて最初のほうで多色の優秀なカードを流し、下にその色をやらせたうえでその色を自分もやり、下のプレイヤーのデッキを弱体化させるという作戦だ。この環境はギルドによって実質的なカラーコンビネーションが制限されており、一度触った色から変更するのは難しいという点もあり効果的なアプローチに思えた。
特に準決勝の行弘、佐藤、山本 対 松本、中村、井川戦では、この作戦の結果が顕著に出た。
松本→佐藤→井川→行弘→中村→山本(→松本に戻る)の順番で座っていたのだが、なんと前の松本→佐藤→井川の3人ともが緑で、後ろの行弘→中村→山本では3人ともが青という通常のドラフトとは全く異なった構図になった。
互いが互いに牽制し合うなか、結果環境の最強色である青を2人で使えていて、相手のあまり強力でない緑のデッキと対戦することのできたこちらのチームの勝利となった。
もう1つピックの段階で意識していたことは後手でも戦えるデッキを組むということだ。
決勝ラウンドの先手後手は予選ラウンドの結果によって決まるのだが、我々は4位抜けだったので常に全員後手スタートということが決まっていた。(正確には相手には選ぶ権利があるだけだが先手を選ぶだろう)
したがって先手のときにより強力なアーキタイプ、例えばボロスやビートダウンタイプのイゼットはなるべく避けるようにはあらかじめ決めておいた。
・構築 ~深く寄せる~
チームドラフトにおいては、席の配置が相手1人を必ず味方2人で挟む構図になっているため、理論上は全ての情報の共有さえできれば相手の取ったカードは初手以外全てわかる。
現実的には流したカードや流れてきたカードを全て暗記することはできないが、強力なカードなど重要なものが消えたかどうかだけでもピック後に共有することができれば、相手の色やデッキ構成をある程度把握することができる。
実際準決勝、決勝どちらにおいても我々はそれぞれの対戦相手の色を全て把握しており、そのうえで相手の取る戦略に対応したデッキを構築した。
対戦相手の三原さんのデッキがあらかじめボロスだとわかっていたため、メインデッキから《ケンタウルスの仲裁者》、《正義の一撃》、《押し潰す梢》、《刎頸の友》を入れることができた。高速ビートダウンには効果的ではない《ギルドパクトの大剣》、《世界魂の巨像》、《罪人逮捕》、《鮮烈な蘇生》を抜くことができた。これが相手のデッキがもしディミーアだったら、あるいは何色かわからない状態でのデッキ構築だったら、それぞれ違ったメインデッキになるだろう。
向かい側にいる直接の対戦相手の色は自分からはわからない。挟んでいるのは自分でないチームメイト2人だからだ。できるのはチームメイトの証言を信じることだけだ。深く寄せたこのメインデッキで戦えたのは紛れもなく正確で優秀なチームメイトのおかげだった。
・プレイング ~見ていないものに対応するレンジを狭める~
我々の対戦は準決勝、決勝ともにビデオマッチで(どこかから情報が一方に伝わったりしたときに有利不利がつかないように)対戦する前に全てのピックしたカードを全て公開の上でゲームをしたため、見ていないものに対応するレンジを「なくす」が今回においては正しいが、例えピックしたカードが公開されていなかったとしても、ぼくが見ていない、チームメイトが流していないといったカードに対してはほぼ警戒しなかっただろう。
デッキ構築が寄せられるのと同様にプレイングも寄せられるのだ。
あなたのチームメイトが見ていないと言ったのであれば、ときには大胆なブラフキャッチや複数ブロックをしたほうがよいこともある。
だからこそ流したカードは広く覚えておく必要がある。超強力なカードだけでなく、除去やコンバットスペルに関しても覚えておくといい。チームメイトからあのジャイグロ見た?と言われたときにきちんと答えられるようにしておこう。
そんなこんな見たカードを思い出しながらプレイして、決勝戦では殿堂プレイヤーの三原槙仁に勝利してチーム優勝を決めることができた。
ということで素晴らしいチームメイトと共にシーズン初めに素晴らしい結果を残すことができた。
もちろんとてもラッキーだったけれども、ただツイていただけでもない。今回の記事ではいくつかの優位性があったであろうところを書いたつもりだ。
これを読んだ多くのプレイヤーになんらかの気づきがあれば嬉しいが、もしかしたら難しかったかもしれないし、すぐには取り入れられないかもしれない。
全てを理解しようとするのではなく、あいつそう言えばこんなこと言ってたなくらいのノリで覚えておいてもらえれば幸いだ。
何かわかりづらかったところや、その他のことでなにか聞きたいことがあったらぼくのTwitterアカウントにでも質問してくれ。
それではまた。
あなたが様々な状況に的確に対応できるようになることを祈りつつ。