Text by Moriyasu Genki
BIG MAGIC所属プロ新加入インタビュー:佐藤 レイ
「オンライン・サロンを開きたい」
2018年、新シーズン。「BIG MAGIC所属プロ」に新たなメンバーが加入した。
佐藤 レイ
競技者たちから「リミテッド・マスター」として評価と信頼を得つつも、これまでは競技マジックにオールインすることなく、一定の距離を取って接してきたプレイヤーだ。
時々ふらっとあらわれては、勝ちをさらっていく。そんなイメージを持たれることも多い彼が昨年の「グランプリ・香港2017」というビッグタイトルの優勝・獲得を期に、プロ・シーン最前線に踊り出てきた。
優勝当時、「目標はシルバー(レベルプロ)」と答えたことも今は昔。この1年で最上位であるプラチナレベルプロにまで駆け上がった"さとれい"にマジックに対する考え方と自身の「これまで」と「今」、そして「これから」を語っていただく。
「親にカード隠されたことありますよ」
佐藤プロは「オンスロート」のころに競技マジックに参加。「16歳でプロツアー初出場」という経歴を持つ。当時の印象深い思い出を聞いた。
佐藤「初めてのプロツアー出場はチーム戦だったんですけど。そのときのチームメイトが、彌永(世界選手権11優勝 彌永 淳也)17歳、片寄(片寄 真吾)18歳で。未成年だけで行くというところで、僕の親と片寄の親は顔合わせしていますね。もちろん海外でのコミュニケーションの問題もあったし、当時は勉学優先ということで出場権利があるプロツアーに行けないこともありました」
佐藤「最近、中高生のマジック・プレイヤーの子たちと交流する機会があったんですけど。ユースアンバサダーの子たちもそうですね。彼ら彼女ら、むちゃくちゃ親が応援してくれているんですよね。それ、むちゃくちゃ羨ましいなと思いましたね(笑)。僕、学生のころ親にカード隠されたことありますよ。テストの前に、マジックばかりしていたんで。それで『反骨精神』じゃないですけど、"やってやんよ!"と思ったところもありましたね。そういうのは、良く覚えています。」
「不自由さの中にある自由」。佐藤プロがマジックを愛する理由。
その後、佐藤プロはマジックよりもむしろポーカーや麻雀も遊ぶようになった時期があった。学友たちと遊びやすいゲームだったという話もあったが、マジックとは異なりつつも似た部分のあるゲームを遊びながら、彼自身を象徴する『勝敗論』が形成されていった。
佐藤「麻雀とマジック、特にリミテッドは似ていると思います。そのときどきの配牌(はいぱい)で勝負するところですね。シールドって、嫌いな人も多いと思うんですよ。
『こんなの運ゲーじゃん』って人もいる。でも、どっちかっていうと麻雀の方がより配牌ゲー(ム)な訳ですよ。配られたもので精一杯やるしかない、っていうことで」
配られたものでやるしかない。ではない。配られたもので"精一杯"やるしかない。
そう語る佐藤プロの表情は、困難さに立ち向かうことを喜びと感じる男の顔だった。
佐藤「カードゲーム好きな人の多くが、そうした配牌ゲーよりも自由な遊びが好きなんですよね。粘土遊びやレゴブロックの組み立てに通じる遊び方というか、自分で構築することの独創性が楽しくて、シールドには不自由さを感じると思うんです。でも僕はどっちかっていうと、その『不自由さの中にある自由』が好き。自分なりのアプローチで自分なりの回答を出していくというところですね。そのあたりが共通するアプローチをもつ遊びとして、マジックをしたからこそ麻雀を楽しめたし、麻雀を覚えたからこそポーカーも遊ぶようになったし、そこはつながっていますね」
麻雀・ポーカーとマジックの一番の違い。「勝つこと」に対する考え方。
佐藤「違いもありますね。独創性の部分もそうですが、マジックは自分がカードを所有することになるので、愛着を持つ、ポケモン的な楽しみ方もありますよね。この要素は麻雀・ポーカーにはないです。自分の枕元にデッキを置いて、傍に置いてって。"思い入れ"を持てるのは、結構特有だと思います」
佐藤「プレイ人数の違いも。"1対1のマジック"と"4人戦の麻雀"は大きく違いますね。4人対戦だとそのなかで1位になる確率って、上手い人で多分30%くらいなんですよね。100%を単純に4人で割ると25%なので、そこに技術力で5%上乗せするっていう感じです。誰かだけが1位を繰りかえすというようなものじゃない。だから麻雀はみんなが負けるゲームなんですね。マジックで考えると、すごく勝つ人って勝率70%くらいだと思うんです。10回やって3回しか勝てないのと7回勝てるのだと、感覚としては全然違いますよね。だから僕は、麻雀・ポーカーをやって、良くも悪くも勝負に負け慣れました」
敗北を知る男は、同時に勝利の価値も知っていた。そして勝利のなかでも、『優勝』というものには格別の思いを抱いていた。
佐藤「その上で1位、優勝については、とても重要だと思っています。すべての大会で基本的には優勝を目指して参加しています。プロポイント・レース上の都合で丸い選択を打つこともありますが、基本的には優勝を目指しています。優勝した人っていうのは、ずっと覚えられているけど、準優勝した人っていうのは忘れられちゃうということもあるので、"優勝以外は全部負け"と思って、参加していますね。ただ、参加の気概としては優勝を目指していますが、実際には今のプラチナ・プロという立場になったポイント獲得も、ほぼほぼ優勝ではなく入賞によって構築されているわけです。やっぱりコツコツ積み重ねていく、というのは大事だと思っています。多くの入賞が今の自分を支えてくれています。」
「マジックのオンライン・サロンを開きたい」
マジック・プレイヤーとして優勝、入賞を目指しつづける佐藤プロ。ファンに、観客に、プレイヤーたちに覚えていてもらいたいと語る姿勢は、マジックのプレイだけでなく日常の仕事にも反映されていた。
佐藤「今はSekappy(セカッピー)で働いていて、東京を中心に活動しています。マジックに関すること以外の業務もしているんですが、今後は自分がプロとしてプレイヤーとして有名になることで会社自体がプラスになるような働き方をよりして行きたいと思っています。」
佐藤「社内の人に対してマジック・イベントを提案したり、社外の人にSekappyってこんなことしていますって伝える広告を打ち出したりしています。告知にあたって自分のプレイヤーとしての認知度、魅力が上がれば人が来てもらえる。そうした流れになれば、嬉しいです。」
プロプレイヤーとしての活動をしてゆくことで、マジックも仕事も充実したものになってゆく。佐藤プロの活躍・働き方は、まさしく『職業・プロプレイヤー』と呼ばれるモデルなのかもしれない。
プロプレイヤーたる佐藤プロが描く未来のひとつに、オンラインを活用した新しいコミュニティの形があった。
佐藤「これまで趣味としてマジックをやってきたなかで、グランプリとかも出てきましたけど今年に比べれば結果は出てきてなかったわけです。でも今年、ノンレベ(ル)からプラチナにまでなれたときに、コミュニティに属しているというのがとても大きかったなと実感しました。一緒に練習したり、意見を言い合えたりする場所、人の集まり、そういうのを作っていけたらなと思っています。」
佐藤「プロツアーに出てみたいけど志をともにする友達や仲間が近くにいない。いわゆる地方に住んでいて、やる気はあるんだけど、情報が一方的に欲しいんじゃなくて、やりとりをしたいとか。学業や仕事で中断していてマジックにさける時間に制限はありつつももう一度プロ、プロツアーを目指す"復帰組"や、マジックをはじめたばかりで交流相手もまだ少ないとか。人それぞれ場所それぞれに障害や課題があるなかでも共通する、マジックに対する熱意でつながることが本当は出来る人たち。そうした人たちに対して、コミュニティとしての『マジックのオンライン・サロン』を用意したいなと考えています。そうしたマジックのコミュニティを用意したり、管理したりするような活動をしていきたいですね」
ウェブの情報サイトとPCゲーム・Magic Onlineが発達したことで『実際に集まって練習する場所』としてのコミュニティの存在価値は下がったと語るプレイヤーたちもいる。そのなかで、佐藤プロはコミュニティで得られたものが多いと力説し、その恩恵をコミュニティから遠のいている人たちにも得てほしいと語る。
サロンという表現は単にフリーワードなチャット・ルームのスペースを用意するということではない。「目的を同じくするマジック・プレイヤーたちのコミュニティ」にとって必要な機能も紐づいて実装されていたり、利用者がやりとりの上で必要な情報にしっかりたどり着けるような管理・ナビゲートも構想に含まれているということだろう。
熱意や課題の質・内容などによっても機能を使い分けられるようになるかもしれない。「人と人がつながるリアルのコミュニティ」に対して、「目的と目的でつながるオンラインのコミュニティ」という側面が強く打ち出されそうだ。サロンの構想案に伴って、佐藤プロはリアルのコミュニティの大切さもしっかり訴えている。リアルの「代替」ではなく、その人にとってより良い環境となるための『新しい選択肢』として、オンライン・サロンを用意することを意識している。
チーム「Kusemono」と活動をともにして得た経験
佐藤プロがプラチナプロに昇格を決めた昨シーズンを振り返ったとき、「なにより大切だったと実感した」と繰り返し話す『コミュニティ』の力。
彼自身がいま所属するのは、2つ。『Sekappy』と、そしてもう1つは日本を代表するプロチームだ。
佐藤「いま自分が属するコミュニティは『Sekappy』と『Kusemono』になります。昨シーズンのはじめ、僕は『Kusemono』のチームメンバーではなかったんですが、そんななかでも正規メンバーの6人に加えて井川(井川 良彦)と僕と8人で練習させてもらっていました。実際、この1年で挙げられた成績に関しては『Kusemono』のおかげというのを強く思っています。今期は『Kusemono』の一員として、やっていこうと思っています。実際の練習内容としてはプロツアーの1週間前に海外に行き、民泊を取って、そこでずっとマジックをするという活動が中心ですね」
『Kusemono』はシーズンを通して世界を相手にチームシリーズ戦を競うプロチームの1つだ。昨シーズンは中村 修平、瀧村 和幸、高橋 優太、井上 徹、熊谷 陸、藤村 和晃ら最前線のプロメンバーで構成されていた。佐藤プロは特にチームまとめ役となる中村プロとの仲は良いようだ。
「世界選手権に出てみたい」
そうしたコミュニティに支えられプラチナレベルプロとしてのスタートを切った今シーズン。佐藤プロは明確な目標を『2つ』、示してくれた。
佐藤「今年すごくラッキーなことに(プロプレイヤーズ・クラブ)制度変更の結果もありまして、プラチナレベルとしてスタートすることが出来ています。次の目標はプラチナレベルを維持することと、できたら世界選手権に出てみたいの2つですね。シーズン開始にあたって、ゴールド以上で迎えるのが今年初めてなので、やっぱり1年間のプロツアー参加が確約されているのって、すごくラッキーなことだと思っていて。昨年プラチナだった実力者でも不運で今年シルバーになることもあるわけですし。なので『国内プロポイント1位による世界選手権出場』というポジションは来年以降も継続して目指せるようなものではないな、と思っているので、せっかくですので今年は世界選手権出場、目指してみたいですね。」
プロポイントによって世界選手権出場を目指す。それは事実上、日本で誰よりも勝ってみせたいということでもある。
佐藤「去年のグランプリは12、13回参加しているんです。そのなかで7回プロポイントを獲得しているんですけど、つまり半分くらいしか獲得できていないんです。12キャップ(※)あると、参加できるプロツアーの最低4回あるとして、残りの8つを埋めるために14、15回くらいグランプリに出たいなと思っています。なので国内の他にも10回くらいは海外のグランプリに出る予定です。リミテッド・フォーマットは優先して出たいですね。次いで、スタンダードですね。モダン・レガシーはやっぱりちょっと少なくなるのかな」
(※12キャップ。ここではシーズン中に参加した大会のうち、成績上位12大会のポイントを数えるというプロプレイヤーズ・クラブのポイントレース点数制度のこと。)
モダンはむしろ「好き」
精力的にグランプリ参加を打ち出す佐藤プロ。リミテッド・マスターの二つ名の通り、リミテッドを優先するという言葉が出たが、それぞれのフォーマットに対する思いはどんなものがあるのだろうか。
佐藤「Sekappyに入って思ったんですが。モダンを好きな社会人、多いですね。競技マジックバリバリじゃない人にとってスタンダードは(ローテーションが)早すぎちゃう、レガシーは高すぎるということで、モダンをやっている人が本当に多くて。それで、やってみると、面白いですね。モダン・レガシーはプールが広いので、プロツアー向きじゃないというか、『今の』プールに対しての自分なりの回答を示しあう場所がプロツアーなのかなと思っているので違和感があるんですけど、でもゲームを楽しむという点では、すごく面白いですね。さっき言った粘土やレゴのような『独創性』の性質、自分のしたいことを実現するという点の魅力に関しては、プールは広ければ広いほうが良いですし。『どのデッキ選択がベストなのか』というような大会にはスタンダードと比べて不向きだなと感じているんですが、普段気軽にプレイする上では、モダンむしろ「好き」ですね。」
好きなことについての話は、あらためてマジック以外にも及んだ。
「あと好きなものは、頻度はやっぱり減りましたけど、(指折り数えて)ポーカー、麻雀、旅行。マジックのイベントと合わせての旅行はすごく好きですね。お酒も好きです(笑)
河浜君(BIGs 河浜 貴和)君とかと麻雀しますよ。彼、すごく麻雀していて。ここにきて大学生みたいなノリで平日徹夜とか大丈夫かよ(笑)みたいな。グランプリとか、このあいだの日本選手権(2018・静岡)のときも普段やらない関西の子と打ったりして。はまち君(BIGs 藤本 岳大)ともしましたね。」
BIG MAGICは自由な気風だと感じた
好きなことの話は、やりたいことの話につながってゆく。佐藤プロが目指す自身の在り方とマジックとの接し方を読み解くには、常に『自由』というキーワードがあった。
佐藤「ブログを書きたいとか、noteで有料記事を書きたいとか、サロンを開いてみたいとか。会社としてSekappyと連動してやってみたいなと思ってもいるんですけど、でも企業判断で難しいということもあって。くーやんさん(BIG MAGICマネジャー 日下部 恭平)とそのあたりの話もさせてもらったんです。" 事前に相談してくれたら、やって大丈夫だよ" っていう話をいただいて。そのあたりの、『自由な気風』が今回スポンサーを受ける一番の決め手でしたね。」
佐藤「『自分がプレイヤーとしてやりたいこと、スポンサー企業に対して自分としてなにが出来るのか』を考えたときにBIG MAGICの考え方・規模が合っていると思いました。あと、BIG MAGICが『日本』のマジック、マジック・コミュニティにコミットしているなと感じるところも、自分としては良いなと思ったところですね。やっぱりグランプリやBMO(BIG MAGIC Open)といった大規模なイベントを主管、主催しているということに対して自分も応援したいです。今回は結果として移籍という形になりましたが、移籍元とも相談をつづけ、ベストなタイミングを選んでの円満的な移籍でした。」
一番の理由として、『佐藤プロが考える自由』とBIG MAGICの掲げる企業スタイルが合致してのスポンサー締結となったようだ。
佐藤プロが考える『ベストな自分』。そして『ベストなプロ』とはどういった在り方なのだろうか。プロプレヤイーズ・クラブという独自のプロ制度が敷かれるマジックにおいて『プロとはなにか』というところに焦点をおいた話も伺った。
プロとは、みんなに憧れられる存在
佐藤「プロという言葉の意味をとらえたときに、スポンサーを受ける、もしくはそれで生活をしている人をさす言葉だと思うんです。でもやっぱり、自分がはじめてプロポイントをとったときにはすごく嬉しかったですね。そういった活動から、プロになっていく。ナベ(Team Cygames所属 渡辺 雄也)やヤソ(Team Cygames所属 八十岡 翔太)のように本当のプロになっていく、というのが良い流れだと思うんですね。なのでプロ(プレイヤーズ・クラブ)制度というのはすごく好きですし、ポイント制度も良い制度だと思います」
佐藤「行弘(Dig.cards所属 行弘 賢)は凄く尊敬していて、好きなプレイヤーでもあります。プレイヤーとして尖ったデッキ選択も出来るじゃないですか。丸くおさまってないというか。日本選手権でもそうでしたが青単や黒緑を組んだ上で、大きい大会に持ち込んで、結果を出す。独創性という部分で、理想像ですよね。カッコいいなあと思いますね。誰に対して一番リスペクトがあるのかというと、今は行弘に対してですね。リミテッドに関しても、行弘とナベは自分より上かなと思うことがあります」
プロとはなにか。その代表格として、今期のプラチナ・プロたちの名が並んだ。もし彼らが失態を犯してしまうことがあったとしても、その実力やマジックに対する姿勢、思いに対する尊敬は揺るがないと語る。
佐藤「グランプリ・名古屋ではその行弘と、ヤマケン(Cygames所属 山本 賢太郎)と組みます。ヤマケンとも長い付き合いですね、頑張りたいです」
"言葉にしきれないほど、やりたいことが沢山ある。やりたいことは言葉にして、一つずつ実現してゆこう。ベストな自分は、その先に在る。" そうした理念で活動しているというのが、インタビューを通して感じた佐藤プロの印象だ。彼が有言して目指すのは『プラチナの継続』『世界選手権出場』。そして表題にも挙げた『オンライン・サロンの実現』。
どれも簡単に出来るものではない。だからこそ実現できたときの達成感は他にかえがたいものだということを知っているからこそ、あえて口にしているのだろう。それは彼がリミテッドを表現した『不自由さの中にある自由』にも通ずるものがあるのかもしれない。
BIG MAGIC所属プロ、佐藤 レイ。
この肩書きとその名の組み合わせが世界に知れ渡るシーズンが、彼が自らの自由を表現するためのシーズンが、いよいよはじまった。