岩SHOWのEssay:The Gathering 第9回『君が狩る獲物の名前はなんでしょう:ややこしい鹿の話』

 10月21日に緊急前倒し!その夜、多くのプレイヤーが震え上がり、また期待を抱いた..."審判の日"禁止制限告知である。結果、スタンダードで《死者の原野》が、パウパーで《アーカムの天測儀》が禁止となった。アーカムはしゃーないわ、色の概念が完全になくなってたからな。


《死者の原野》の禁止については賛否両論、正確には原野のみの禁止が問題視されている。非常に多くのプレイヤーが《王冠泥棒、オーコ》も禁止にするべきだったと強く主張している。原野と環境の1,2を争っていたオーコ率いる食物デッキがライバルを失い、一強になってしまうことを恐れて声を上げている。気持ちは大いに理解できるのだが、もう決まってしまったものはしょうがない。競技プレイヤーはその中でベストを尽くすしかないのだ。メインから《害悪な掌握》が飛び交うような冥府魔道であっても、戦っていかねばならない。


 


 ...と、このままではオーコがネガティブな印象を強めるのみかもしれないと危惧した当コラムではカードを嫌いになってほしくないという純粋な想いから楽しい話をしようじゃないかという姿勢。オーコの強みは本来なら【-1】能力にされるべきだったと毎日のように囁かれる【+1】能力、クリーチャーかアーティファクトの能力を失わせて3/3の緑の大鹿にするアレだ。あの能力はあらゆるフォーマットで強力であり、そのためオーコはスタンダードのみならずモダン、レガシー、ヴィンテージと構築シーンで引く手あまただ。


個人的にこの能力は鹿になるというシュールさが面白いと感じている。MTGアリーナ上で起動するとオーコ自身が「Oh deer.(あぁ、鹿だ)」とつぶやくのも笑える。で、ここで気付いたことがある。オーコ自身は大鹿になったクリーチャーを鹿と呼ぶのである。え、何の話と思ったかい?今日はここを掘り下げるぞ、いいからついてこい。


 


 


第9回 君が狩る獲物の名前はなんでしょう:ややこしい鹿の話


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 一体何を気にしているのかということを説明せねばならない。オーコのセリフをもう一度。


 


「Oh deer.」


 


 Deerはまんま鹿のこと。おぉ鹿だ、あぁ鹿だね。自分から鹿にメタモルフォーゼさせといてそのリアクションは何だと。まあ、煽ってるのである。問題はオーコが鹿にした相手を鹿と言っていることにある。いやだからさっきからなんやねんと言われそうなので勿体ぶらずに言おう。


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ケンリスの変身》のイラストなどに見られるように、オーコの能力で鹿にされた相手はそれはもう完璧な鹿となる。毛皮に覆われ、立派な角を持った四つ足の獣。間違いなく鹿だ。しかしながらそのクリーチャータイプは、鹿(Deer)ではない。そう、テキストにも書かれているように"大鹿"なのである。英語ではElkだ。


日本語ではただ単にデカい鹿という表現になるだけなのに、英語ではGiant deerとはならずに全く違う字体になってしまうのだ。これ、どういうことだろう?そんな疑問を抱いた方、これを読んでくれてるMTGマニアの中に一人や二人くらい...いるよね?とりあえずそう信じて突き進もう。鹿にして鹿にあらず、大鹿なり。でもそれを見てオーコは鹿であると言う。この矛盾を解き明かすには大鹿/Elkとは何かを調べると答えは出てくる。


 


 エルク/Elkとは本来、日本に生息するような一般的な鹿のことを指す言葉ではない。驚愕の事実である(どうか驚いて)。エルクとは、実はヘラジカのことだ。インターネット上でも時折「デカすぎてヤバい」と話題になるあの動物である。哺乳網偶蹄目シカ科ヘラジカ属、ヘラジカ属はヘラジカただ一種のみ。分布域は広く、北欧・ロシア・中国とユーラシア大陸をまたぎ、またカナダとアメリカにも生息する。


要するに地球の北側で生きることに成功した動物。遥か太古の時代には日本にも生息していたそうで、こういうのが大陸がかつて繋がってたことの証明になるんだろうね。ヘラジカの特徴は先にも触れたように何と言ってもデカいこと。大きいものでは体長3メートル、肩の高さが2.3メートルにもなったりする。でかい、こりゃもう怖いよ。重さでは1トンを超える記録もあるのだとか。


ちょっとしたサイとかカバみたいなもんで、体高がある分より大きく見えるかも。サラブレッドが小さく見えるだろうね。シカの仲間であるため、勿論草食性。森林地帯に住み、背の高さを活かして木の葉や皮、種子なんかを食べたりしてのんびり過ごしている。オオカミやヒグマなんかの肉食獣の標的となることも多いが、成獣の雄に単独で挑むとヒグマでも返り討ちに遭い死亡したケースが報告されている。


身体も大きけりゃ、その角もデカい。巨大なものでは2メートルにもなるという立派なもので、普通の鹿に比べると手のひらや櫛のような平らな部分から細い角が分化している形状が特徴的に映る。和名のヘラジカはこの平たい部分をヘラに見立ててのものだ。ちょうどわかりやすいサンプルとして、《高地の獲物》がある。これ大鹿クリーチャーの中でも特にヘラジカの特徴がよく出ている。


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《ケンリスの変身》や《不可解な幻視》に見られる枝分かれした細身の角を持つ鹿に比べると、まさしく櫛状で太い角を持つ。がっしりした体格やシュッとしておらず太い顔なんかもヘラジカ感がよく出ている。ヘラジカと言えば雄は唇の部分が分厚く発達して垂れ下がる。ヘラジカをモデルにしたマスコットキャラクターにもこの特徴が与えられていることが多い。このぬぼっとした顔立ちがヘラジカ=デカいけど温厚、まったりマイペースなのんびり屋さんというイメージを与えている。


実際には先述のように角を用いて捕食者や同種間で争うこともある、やる時はやるタイプ。機嫌が悪い時は危険だという話は聞くが、それよりもヘラジカが引き起こすのは衝突事故という印象が強い。体色が黒っぽく、また背が高いために光を反射する目がドライバーの視点から見えない可能性がある。そのため夜間に道路を横断中のヘラジカと車が衝突してしまう事故が度々起こるようだ。お互いにとって悲しい結末となるので、北米や北欧の夜道のドライブには注意したいところ。


 


 ヘラジカについてついついしゃべりすぎてしまったが、要するにエルクはヘラジカのことである。《ケンリスの変身》や大鹿タイプを持つクリーチャーの多くはヘラジカっぽくないシカ科シカ属よりの見た目をしている。これは...実は北米ではエルクはヘラジカのことを意味するわけではないからだ。わけわからんというリアクションも当然のこと。


実はヘラジカをエルクと呼ぶのはユーラシア側の呼び方であり、北米ではムースと呼ぶのは一般的だ。そして北米におけるエルクとは...アメリカアカシカのことである。アメリカアカシカはその名の通り北米、そしてユーラシアの一部に生息するシカ科シカ属、あなたが鹿と聞いてパッと思い浮かべる見た目をしたテンプレ鹿なシルエットの持ち主だ。


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 ごく一般的な鹿の見た目ではあるが、その最大の特徴はデカさ。そう、この鹿はヘラジカに次ぐ2番目に大きな鹿の仲間なのだ。全長2.4メートル、肩高1.5メートル、体重は300キロほど。ヘラジカには劣るが、奈良公園にいる鹿と比較してそのデカさが伝わることだろう。


このアメリカアカシカを、北米にやってきたヨーロッパの人間が目撃した際に、彼らの知る鹿/Deerの範疇を越えた大きさだったためにヘラジカの仲間だと勘違いし、そのためエルクと呼ぶようになったのだと、こういうトリックらしい。で、アメリカアカシカと明らかに見た目が異なり別種であるヘラジカは先住民の言葉を借りてムースと呼ぶようになった。


動物の名前って、こういうことが結構あるんです。まあそんなわけで、アメリカではエルクは一般的な鹿のこと。で英語的にはヘラジカも内包する。鹿のクリーチャーカードにDeerというタイプを与えると、ヘラジカな見た目のやつにはElkと別タイプをつけなきゃらないのだろう。だったら両方を意味するElkで統一しちゃおう!おそらくはこんなところだと思われる。クリーチャータイプ的には大鹿/Elkって形で統一してしまって、各々の鹿カードの名前とかはまた別ってことで。このヘラジカ・アメリカアカシカ問題以前にそもそも英語での鹿の呼び方ってバリエーションが多いのだ。


鹿:Deer


雄鹿:Stag、Buck、Hart


雌鹿:Doe、Hind


小鹿:Fawn


 どんだけよ。ちゃんとマジックのカードでも



斧折りの雄鹿》...Axebane Stag
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微光角の鹿》...Glimmerpoint Stag
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つややかな雄鹿》...Burnished Hart
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大アカシカ》...Great Hart
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黄金の雌鹿》...Golden Hind
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以上のようにしっかりと使い分けられている。まだマジック的にはBuckとFawnの名を持つ大鹿カードは不在だ。いつか出てくるのだろうか。ちなみに小鹿をバンビと呼びがちだが、これはあくまでキャラクター名だ。


 ちなみにこれからのシーズン、街中でも見かけることになるクリスマスのアイコンの1つであるトナカイ。これはシカ科トナカイ属に分類され、鹿の仲間では唯一雌雄両方が角を持つものだ。ヘラジカと同じく北米とユーラシアの北方に生息し、古くから家畜化されて人と共に生きている動物である。乳、肉、毛皮といった資源でありソリを引く労働力でもある。ちなみに雑食性でメインは植物を食べるが、時折昆虫や小動物なども食べることがあるという。このトナカイは北米ではカリブーと呼ばれる。そしてマジックには、なんとカリブーが単独のクリーチャータイプとして存在する。


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カリブー放牧場》は一度しか再録されていないものの2種類のイラストが存在する、ちょっと恵まれているカードだ。土地に0/1のカリブーを生成する能力を与えつつ、このオーラ自身はカリブーを生け贄に捧げると1点回復するという起動型能力を持っている。土地が両方の能力を得たりそもそもトークンにその能力が付きそうなもんだが、それぞれ別個で能力を持つというのはなんだか面白い。《真髄の針》で意気揚々と《カリブー放牧場》を指定してもトークンは生成されるってことだ。どういうゲーム展開って感じだが、もしもの時に何が役に立つかはわからないもんである。覚えておこう。


しかしまあカリブー、大鹿に統一されずに今日まで生き延びてるは面白いね。このカードしかないしどうでも良いんじゃないのかって?そう言うなよ、廃止された貴族だって蘇ったくらいだから、いつの日かサンタクロース風の魔術師が主役のセットでカリブーが取り上げられるかもしれないじゃないか。こういう夢を見させてくれる要素はゲームに必要なんだわ。ちなみにMagic Onlineではカリブートークンのために専用のイラストが用意されている。


 


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 今回はカードがどうこうというよりは大鹿という概念について取り上げた。正直、毎回こういうのでやりたいよ。オーコのイメージアップのために鹿にする能力をどうのこうのと理由をつけて書き始めたが、正直そこはどうでも良くなってしまったので投げっぱなし気味に終わりたい。


これを書こうと思ったきっかけはそもそも、某動画配信サービスの狩猟番組において、どう見てもヘラジカではない鹿のことを字幕でしきりにヘラジカと表記していたのが気になって調べたからである。鹿狩り、一度はやってみたいもんだなぁ。いつか狩猟レポートとか書けたら面白いのにとか思いつつ、そんなもん多くの読者がドン引きしそうな写真連発だろうなって...そもそもマジック関係ないしな...。



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