岩SHOWのEssay:The Gathering 第7回『血液(マナ)を注ぎ込め!毎ターン元気にパンプアップ!』

 最近筋トレに勤しんでいるのだが、都度実感することがある。「これがパンプアップか」と。パンプアップ(pump up)は風船なんかを膨らませるという意味で、そこから転じて運動によって筋肉を一時的に膨張させるというトレーニングやボディビルの用語になっている。普段あまり運動しなくとも、重い荷物を何度も運んだ時に二の腕がパンパンになることがあるだろう。それがパンプアップだ。


詳しいことはわからないが、どうも筋肉というやつは負荷がかかって動作している状態では所謂貧血に陥っているらしい。その動作が終わった時、圧がかかっていた静脈が解放されたり乳酸なんかが発生したことで浸透圧がどうたらなった関係で、血液が一気に筋肉内に流れ込むのだとか。それによって腕や脚がパンパン、はち切れんばかりのパンプアップしている状態になるらしい。あの瞬間が気持ちよくってね、ここまでデカくなったか~でももっともっとデカくしたい!とモチベーションがアップするわけだ。


 パンプアップとはマジックプレイヤーにとっても馴染み深い単語だったりする。血液が流れ込んで筋肉が膨張するように、マナを支払うことで起動する能力でクリーチャーのサイズをターン終了時まで上昇させることをパンプアップや単にパンプと表現することが多々ある。この表現を最初に用いた人はかなり良いセンスしてるなと驚嘆するばかりだ。今日は有名だったり個人的に好きなパンプアップするカード達を紹介したいと思う。パンプアップを経て心地よい疲労感に包まれた我が腕で、キーボードを叩いていこう!



第7回:血液(マナ)を注ぎ込め!毎ターン元気にパンプアップ!


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 パンプアップの元祖とも言えるカードは...実は結構な数がある。最初の基本セットである『リミテッド・エディション』の時点で2種類のパンプアップが登場している。まずはパンプアップと言えばこっちを思い浮かべる人が多いだろうか、赤のパンプ・パワーのみを上昇させる能力からいってみよう!


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 マジックにおける最初のドラゴン2頭。これらに共通しているのは赤マナを払うとターン終了時までパワーが1上昇するということ。ドラゴンと言えば火炎を吐くものと相場が決まっている。その炎を噴く様をこの能力で表現したというのだから...天才的な発想と思わんかね?《チビ・ドラゴン》は吐ける炎の量に限りがあるというのもなんともフレイバーに富んでいるではないか。


このドラゴンの火吐き能力をクリーチャーに付与する《炎のブレス》にちなんで、パワーのみを上昇させるパンプアップをブレス能力と呼ぶこともある。ブレス能力は後世のドラゴン達にも引き継がれ、皆オマケのようにこの能力を持っていたものだが、今現在ではむしろこれを持つドラゴンの方が珍しくなってしまった。ただその系譜を絶やしてなるものかと言わんばかりに、始祖である《シヴ山のドラゴン》自身が現スタンダードでも使用可能となっている。


ティーチングキャラバンで貰えるデッキやプレインズウォーカーデッキに封入されているこのドラゴンの中のドラゴンを戦場に降臨させ、猛火を振りまくことに胸を躍らせている入門者がこの時代にもいる。その事実が我々のようなベテランおっさんの胸を焦がすんだなぁ。


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 火を吐くという行動以外にもパワー上昇パンプアップを持ったカードが動機には存在する。《炎の壁》、そしてそれと対を成す《水の壁》だ。マナそのもので出来た存在ということだろうか、火勢や水流を強めて触れたものにダメージを与える魔法の罠的なものが容易にイメージできる。炎も水も形のないものであり、燃えるものや水源があれば変幻も膨張も自在という訳だ。


青と赤で全く同じスペックと能力というのは面白い。《炎の精霊》と《水の精霊》だったり《赤霊破》&《青霊破》と、黎明期のマジックにおいて赤と青は相反する色にして本質は同じというイメージが強くデザインに反映されている。


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 同時に登場したもう1つのパンプアップ能力はパワーとタフネスの両方をサイズアップさせるものだ。《凍てつく影》は素のサイズは0/1と最低のものであるが、マナを注げば注ぐほど大きくなる可能性を持っており、それでいて3マナ。同マナ域の炎&水の壁と違って、攻撃に参加可能という点がポイント。


このクリーチャーのデザインには手ごたえがあったようで、以後定期的に初期サイズは小さいがマナを払えばデカくなる黒いクリーチャーがデザインされることとなる。それらの多くはこの始祖に倣ってシェイドのクリーチャータイプが与えられている。シェイド=影であり、それも光によって伸びる日陰のイメージ。影がグングンと伸びていっていつしか人を取り込むほどの深い闇になる、そんなフレイバーが込められているのだろう。


影は光があってこそ存在するもの、ということで対を成すように白にも同様のパワー/タフネスパンプをクリーチャーに付与する《祝福》が作られている。祈りを捧げれば捧げるほど、神や天使からの祝福を受けて肉体が強化されるという宗教的なミラクルを起こす感じか。


ただ、これはどうも白という色がもつフレイバーからはやや外れるものであり、どちらかといえば同期の《聖なる鎧》のようなタフネスのみを強化する、あるいは既定の値だけ強化するという方向のデザインが踏襲されていくようになる。


個人的には白のマナを払えばタフネスアップ、という能力をパンプと呼ぶのはあまり気乗りがしない。攻撃性あってこそのものだと思っているので...。《祝福》は『第5版』の際に他の白のカードとの違和から基本セット落ちすることとなる。


それから随分と経って『基本セット2014』に再録。落ちたのは元々レアだったということもあり、アンコモンに格下げとなって再録であった。でもまあ、やっぱりちょっと違うよなってとこだろうか。新時代の基本セット入りもこの1回のみとなった。



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 元祖の解説が終わったので、ここからは時系列は適当に個人的に好きなパンプアッパー達を紹介していこう。シェイド系の中でもやはり至高と呼べるのは《ナントゥーコの影》。『トーメント』発売時、このスペックはちょっと異常なものだった。


2マナでパワー2あり、1マナでサイズが1アップする効率の良さ。これまでのシェイドの基本サイズは唱えるコストに見合わないというデザインは何だったのかと、黒が主役のセットはやはり違うなと高校生当時はしゃいだものだ。ちなみに僕にとってはじめてボックス買いしたのがこの『トーメント』。郵便局でバイトし、他のことにも使いながらも貯めたお金で買ったこのボックスから...《ナントゥーコの影》は出なかった。


確か2ボックス買ったんだけどもね、0ってオイオイオイ。目の前が真っ暗になりそうだった。《陰謀団の貴重品室》で大量の黒マナを出してこれをパンプして殴る、これやってみたかったなぁ。大学生になったくらいの時にはすっかり安くなっており、BIG MAGICの特価ストレージから発掘できたものを買ったもんである。



 《ナントゥーコの影》でいえばもう1つ思い出がある。そうやって手に入れたナン影君、これを2枚だったか、放り込んだレガシーの黒単アグロを組んだ。青春の1枚である《暗黒の儀式》が使えて、かつ中学生の時に100円とかで売られていたためによく剥いていた『フォールン・エンパイア』から得た《トーラックへの賛歌》が強いというのを耳にして、レガシーをやってみようと思ったのである。


そんでBIG MAGICなんば店に遊びに行って、まあ完全体とは呼べない未熟な黒単でフリープレイなんかしてたわけよ。《ナントゥーコの影》は4枚持ってないし、先述のフォールンの関係で数は持ってた《Order of the Ebon Hand》を何枚か採用してみた。こいつもかつてはパンプナイトと呼ばれた、立派なパンプ能力持ちだ。先制攻撃を得られるってのも良いし、何よりイラストがむっちゃ好きだった。


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 で、当時の常連プレイヤーらが相手をしてくれてた時のこと。観戦していた見ず知らずの人間(まあ後に交流を持つことになる)が一言「なんで《ナントゥーコの影》じゃなくてこんなパンプ効率悪いカード使ってんすか?」...いやまずお前誰やねんと。そん時はナン影4枚もってないねんというのが悔しいのもあってか「いや、上位互換でしょ」とこっちもアグロめに返答した。「いや絶対ナントゥーコの方が強いでしょ!」と食い下がってくるのが鬱陶しくて、表出るかと言いそうになるのをグッとこらえたもんである。


そこで感情的になっていたら今こうしてBIG MAGICで記事を書いてないかもしれんね。そこで僕の心に平静をもたらしてくれたのがほかならぬ《Order of the Ebon Hand》である。


そのゲームにおいて、彼は強かった。対戦相手のメイン除去が《剣を鍬に》であったため、プロテクション(白)が活きた。ナントゥーコや《惑乱の死霊》が日向に出て農業に従事しているのを尻目に、いつまでも戦場に残り続けてくれた。そしてパンプアップで毎ターン3,4点削り、先制攻撃で《ミシュラの工廠》も乗り越え...ゲームに勝利した。「Order強いっしょホラ」と言ってやったことは覚えているんだがその後どういう話になったカは覚えていない。その後、レガシーの大会に定期参戦していた彼はある時からぱったりと姿を消した...今頃どこでどうしているのだろうか。


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 でもパンプ能力持ちで一番好きなものと言われたら《ナカイヤの影》を挙げるかもしれないな。当時のシェイドとしては破格の2マナで基礎サイズ1/1のシェイド!すげぇ!ってなもんでずっと黒単を使ってた身として使わんとなと。ナカイヤというよくわからんけど日本語にも聞こえなくもないサウンドと、背中から苔の生えた石像みたいなビジュアルもストライク。今見ると某漫画のスタンドっぽくもあるな。緑と紫という色の組み合わせもすごく好みで、原画を欲しいとすら思ってしまうレベル。


そんなナカイヤくん、弱い!これがもうビビるくらい強くなかったのだ。『プロフェシー』当時、まだシングルカードをホイホイと買えるような経済状況ではなかった中学生の僕らは、とにかく持ち合わせているカードでデッキを組んでいた。故に皆デッキが弱く、即ちゲームはグダグダになりがちだった。土地が何枚も並ぶ超長期戦。それこそパンプアップが活きてくるではないかと思いきや、相手もマナを余らせているのでナカイヤくんのパンプアップ能力に付随されている「相手が②払わない限り」という条件をことごとく許してくれないのである。


ヒイヒイ言いながらようやっと5/5くらいになっても、相手の場には6/6のワームなんかが立っていて結局殴れんわけ。逆に殴ってこられたところをデカくなってキャッチしようにも妨害され続け...ナカイヤ強ッ!ってなるマッチは1回としてなかった。3ターン目に出てくる《ギトゥの投石戦士》にもよく焼かれたもんである。それでもデッキに1枚入れ続けたのは、愛着というほかない。いつかすべてを薙ぎ倒す肉体にパンプアップしてくれると、そう信じていたなぁ...。


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 2019年現在、スタンダードではかつてないほどに強いパンプアップ持ちが活躍中だ。《漆黒軍の騎士》、なんじゃこりゃ!3マナ必要でも修正値は+3/+3でマナ効率は良いし、接死までつくからサイズ負けとか気にせず殴れる。しかもダメージが通ればエンドに+1/+1カウンターも得る?一時的なパンプアップを越えてしっかりと筋肥大、バルクアップを果たすのである。


おいおい、ウィザーズも筋肉をわかってきてるじゃないか。1マナクリーチャーがこの能力持ちでタイプも吸血鬼に騎士とむちゃ強い。江戸時代と現代人の体格が違うってのはこういうことですか。マナを注げばデカくなる、その一点だけは昔も今も変わらないのはなんだかホッとする話でもある。


僕も日々、パンプアップを目指してやっていこう。膨らんでカチカチになった上腕、鋼のように思えるほどハリのある大腿部、気持ちいいよ!皆もカードをやる合間に筋トレして、自分もパンプアップする感覚を味わってみてはどうかな?スポーツの秋ってことで、今回はこんな感じに。



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