我が家には僕が20歳になる年に家族に迎え入れたカメがいる。毎朝の日課である餌やりをしている時に、それをふと思い出した。もう14年か...14年前のスタンダードって?調べてみると使用可能だったのは...『第9版』『ミラディン』『ダークスティール』『フィフス・ドーン』『神河物語』『神河謀反』『神河救済』。思ってた以上に古ッッ!当時を代表するデッキの1つ「赤単スライ」のエース的な存在は《炎歩スリス》!懐かしすぎるわほんまに。
今ならこれの上位種に当たる《戦慄衆の解体者》がいて、このカードもそれほど使われてるわけじゃないってのがなんとも恐ろしい(これから活躍しそうな予感もするけどね)。
スリスが戦慄衆に進化するまでの間、うちのカメは日向ぼっこして餌喰って冬眠して...変わらぬ生活サイクルを送っていたのかと思うとなんだか感慨深くなってきたもんだ。まだまだ元気だし、可能な限り長生きしてほしいものである。
うちにはもう一頭、去年から迎え入れた別の種類のカメがいる。500円玉くらいの大きさだったのがいつの間にか掌くらいのデカさに成長していてビビる。カメは良いよな、基本的に人懐っこいヤツらで、おっとりしているんだけどもしっかりと動き回って愛嬌に溢れている。
そういえば『エルドレインの王権』では《鋼喰みのハイドラ》なる多頭のリクガメ系が登場する。イラストはカメの愛嬌も残ってはいるがモンスター要素が強めでなんとも不気味。クリーチャータイプはハイドラと、しっかりと海亀も持っている。
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.........海亀?
そう、どっからどう見てもリクガメ(陸亀)なのに、海亀なのである。海亀と言ったらその名の通り海洋に生息し、手足がヒレ状に発達したカメのことである。何故、これが海亀?これにはわけがあって...マジックで最初に登場したカメは『アラビアンナイト』の《象亀》。これのタイプはイラストの通り陸亀/Tortoiseだった。
しかしその後のカメ・カードは海亀/Turtleというタイプを与えられ、陸亀は廃止されて海亀に統一されることとなった。海亀と訳されているTurtleだが、英語圏では海亀も含むカメ全般の呼称として用いられているので、変な話ではないらしい。「ミュータント・タートルズ」だって海亀じゃないしね。日本語に訳された際に海亀となったのでちょっとした誤解を生んでしまっているというわけだ。シンプルに亀と脳内変換してあげるのがファンの務めというものだろう。
『基本セット2020』現在、海亀のタイプを持つカードは全13種類+α。せっかくだから、ここはひとつすべてのカメ・カードをレビューしてみようか。誰もやらない意味のなさそうなことをやる、そこに意味があるってなもんですわ。愛すべきカメたちの姿を拝んでいってあげてね!
第4回 育てよ多元宇宙のカメ
《象亀/Giant Tortoise》
先述の通り、始まりのカメ。アンタップであれば1/4、黎明期の2マナのクリーチャーにしては固め。まあ使うこともないカードだろう。リミテッド向きのスペックを買われて『エターナルマスターズ』に再録されている。新規アートでなんだかカラフルになったが、でもやはり初代の、なんとも言えない表情がナンバーワン。見下してくるほどデカいカメってことなんだろうなこの表情は。
厳密に言うところの初代「海亀」。3マナ2/4、直前のターンに攻撃していると攻撃できないというデメリット能力持ち。2ターンに1回しか行動できないというのはカメの歩みののろさを表現しているのだろうか。カメを飼うものとしては、カメって結構素早いイメージが強いんだけどな。やたら長いフレイバーテキストには「カメって甲羅で覆われて雌雄差がよくわからんけどアイツら自身はそれで困らずに子孫残しててエライよな」と書いてある。
初出は『ポータル』でその後『テンペスト』や基本セットに何度か再録された、カメ界のメジャー・カード。能力を持たない、通称バニラに属する1枚。『テンペスト』版のただ単にワニガメのでかいやつが描かれたイラストが最も人気が高いと思われるが、『ポータル』の現地のおっさんが捕らえましたの図や、『第7版』のウルトラ怪獣感のあるイラストも個人的には好きだったり。
《ヴィンタラのカミツキガメ/Vintara Snapper》
2マナ2/2とカメらしくないスペック。『プロフェシー』のメカニズムの1つである土地がすべてタップならボーナスが得られるものの代名詞的な1枚。なんとなく強そうに見えるんだが、当時は2/2が被覆(呪文や能力の対象にならない)を持っても大した意味がなく、後に完全上位互換である《バサーラ塔の弓兵》が出たことでこのカードを使う理由というものは「カメが好き」以外なくなってしまった。イラストは最高、本来カミツキガメは完全水棲でこんなカラカラな大地に出てくるもんじゃないんだけどもね。
元はナイトメア・ビーストであり海亀ではなかった。他のどんなやつよりも海亀感にあふれているにも関わらずだ。頭上から降り注ぐ日光が美しいイラストは大変に素晴らしいが、3マナ2/4を得るために土地を1枚追放するというコストはとてもじゃないが見合わない。死んだら帰ってくるよ、ってそういう問題じゃない。でもアンコモンなのもあってもしかしたら使えるカードかもと思い、これを入れたデッキを組んだことがある。戦場に出て土地を追放する前に除去されたので、セルフ《石の雨》になってその1ゲームでデッキを解体した。
《寄生牙の亀》から実に8年もの間、新作海亀は登場しなかった。『ワールドウェイク』で満を持して現れたこのカードは、構築シーンでも活躍した海亀界のエリート。3マナ1/4の壁役としてクリーチャーデッキを阻みつつ、ゲーム終盤では土地を置いてパワーを4にして殴るフィニッシャーとしての役目をこなした。ただカメ好きとしては、その見た目が...四肢が発達していて腹を地につけずに歩いていたり、口がくちばし状じゃなかったりして、カミツキガメではなくリクガメでしかないのがちょっと勿体ないなと思ってしまう。
《うねる塔甲羅/Meandering Towershell》
出たァァ海亀界最大のサイズを誇る塔甲羅だぁぁぁッッ!5マナでタフネス9はなかなか見られるもんではない。攻撃すると追放され、次の攻撃クリーチャー指定時に帰ってくる。2ターンに1回しか殴れないという点は前述の《Giant Turtle》と通ずるものがある。ものすごく年老いたクリーチャーを作ろうとの案の元デザインされた。このような経緯で作られたカードはトップダウン・デザインと呼ばれる。悠久の時を生きていることが伝わる、良いデザインだ。ちなみにマジック最後の島渡り持ちでもある。プロテクションは帰ってきたが、渡りが戻ってくる日はあるのだろうか。
カメ好きの心を抉ってくるツラい1枚。塔甲羅はその名の通り甲羅の上に塔が立てられており、スゥルタイに所属する者達が利用していたようだ。サルカンが時を越えて歴史を改変したことでスゥルタイは滅び、かつて塔甲羅が闊歩していた場所にはスゥルタイの墓とも言える廃墟を背負ったカメの死骸が徘徊するように...なんちゅうカードつくってくれるんや!許さん!
《シルブールリンドのカミツキガメ/Silburlind Snapper》
今回紹介したカードの中で、個人的の最も印象の薄い1枚。正式名称とか今回初めて知ったレベル。聞きなれない固有名詞だなと思ったらシルブールリンドを名に冠するカードはこれだけだった。シルブールリンド川という河川らしい。こんなデカいカメを育むってことはよっぽど豊かな環境なのだろう。人間や家畜もバカスカ食われているものと思われる。
唯一のパワー0枠。コストも海亀界では最軽量。見た目は文句なしのウミガメっぷりでなんとも癒し。このカメさんがどうやってエネルギーを生み出しているのかよくわからない。殴った際にエネルギーを支払えばサイズアップするのだが、そもそものサイズが攻撃に不向きすぎるのでこれを用いたアグロデッキなどは組まれなかった。過去2度シュノーケリングしたことがあるのだが、今度はダイビングに挑戦してウミガメを生で拝んでみたいものである。
ゾウガメならぬカメゾウである。『アンステイブル』収録。《角海亀》かゾウ・トークンの基本サイズである3/3かを任意にスイッチ出来る能力で、これ自体は特に銀枠らしい無茶苦茶というわけでもない。それもそのはず、元は《ゾウミガメ/Elephurtle》という通常セットに収録されるカードとしてデザインされたものだったという。クリーチャータイプは銀枠らしく「海亀や象」というよくわからない表現になっているのが良い。パワー/タフネスも?/?ってのがかわいいね。マローは《ゾウミガメ》に思い入れがあったようで、代わりとなる《甲羅象》を作れたことに満足しているそう。なんだかかわいいね。
6マナにしてはサイズが少々落ちるが、呪禁を持っているのでオーラを貼ったりがノーリスクで行える点が優れている。『ドミナリア』リミテッドでは本当によく見たもんだ。MTGアリーナの特殊フォーマット、全知ドラフトでもこれを1ターン目に出して全力で強化して殴るという、シンプルにして打ち崩されることがほぼない安心と信頼の戦略をもたらしていた。
シンプルな名前がステキ。海亀界で最もコストが重い1枚。《冷水カミツキガメ》に1マナ足したら+1/+2修正を得た上に、相手に強制アタックをさせる能力を得た...こう書くとなかなかにスペックが高いことが伝わる。実際にこれが戦場に出ると、なかなかに大きな被害をもたらしてくれるはず。まあ重すぎて間に合わないんだけどもね。アリーナの特殊フォーマット、モミールの狂気では7マナから飛び出すクリーチャーの中でも最強格。強制アタックですべてのプランをぶち壊すべし。ちなみにイラストでは、光る舌を使って水中の魚を寄せ集めている。実在するワニガメも舌の一部の形状や色がミミズなどの蟲に似ており、口を開けてこれをゆらゆら揺らして小魚を誘い出してバクリといただく狩りをおこなう。
名前はワニ、イラストを見ても甲羅くらいしかカメ要素はないが、これでも立派な海亀団の一員である。巨体の持ち主で見るからに狂暴そうだが、環境に順応するまでは自分から攻撃することは無い臆病な性格の持ち主。ラヴニカにはこれ以外にカメが出てこないので、シミックによる遺伝子操作を抜きにした天然もののカメが一体どんな姿をしているのか気になる。そもそもワニとカメとカニを掛け合わせるって、何狙い?学術を盾にして悪ふざけするシミックを許すな。食用ってんならわからんでもない。カメの仲間は美味いからね、筋肉の食感はジャキジャキして面白く、脂ものっていて出汁もよく出る。こないだ初めてスッポンを食いました。
以上、マジックのカメカードの全レビュー...と言いたいところだが、あと1枚だけ紹介させてほしい。
カメを象った戦闘兵器だ。『プロフェシー』発売当時はこのセット唯一の当たりレアとも言われていた、アンコモンなのに...。3マナで3/3相当と当時としては高い性能で、かつ相手のターンにはクリーチャーではないのでソーサリーの除去を受け付けない点が優秀。構えるデッキには向かないが、攻めのデッキにはよく採用されていたものである。この《キマイラ像》、テキストには書かれていないがクリーチャー化した際にはちゃんと海亀のタイプを持っている。イラストが本当に好きで、マジックのカードの中でも屈指のお気に入りの1枚。この雰囲気は今この時代になっても全く色あせない。
最後の最後で最強のカメを紹介したところで、今回はおしまい。最後に我が家のチビカメを見てやってくれ。それじゃまた来週。