岩SHOWのEssay:The Gathering 第2回『名は体を表すのかい、表さないのかい』


 この秋に結婚する友人がいる。彼とはマジックを通じて知り合った。現店舗に移転する前のBIG MAGICなんば店の常連の一人で、『アヴァシンの帰還』深夜プレリで全勝をかけた最終戦で対戦したのが顔合わせ。共通の友人も多く参加していたので一気に仲良くなった(マッチの方は《黄金夜の刃、ギセラ》と《月銀の槍》にボッコボコにされて完敗)。


彼とは実はマジックの対戦自体はそれぐらいしかしたことがない。どちらかといえばマジックという媒介を通じて集い、全く関係のない話で二人ないし他の友人らも含めてゲラゲラ笑うことの方が大事だ。僕らは競技マジックプレイヤーではなかったので、その側面はより強かったね。いつぞやのグランプリ香港にも常連皆で行き、香港の街で笑い散らかしたものである(その旅の帰りが...古くからのBMコンテンツ好きが知る、ある方の大失態である)。


そんな彼から先日、特に仲の良かったメンバーと集まって久しぶりに飲もう!と提案された。待ち合わせはBMなんば店。いつも通りだ。僕がつく頃には彼がパックをじゃんじゃか買って剥いていたりデュアルランドを購入しているのが毎度のパターンで、その日も『モダンホライゾン』を一箱開ける勢いで剥いていた。残業は多いがその分残業代が出るんでね~と言いながら、出会った頃は常連客グループの一人だった現店舗スタッフにやいやい注文をつけながらパックを購入する。立場が変わっても関係性は変わらない、素敵じゃないか。


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で、剥いたパックのレアやFoilで一喜一憂する。特にシールド戦などはしない、本当に剥くだけ。でもそこは皆大阪の人間ですから。しょーもないことでいちいちコメントして、ひとしきり笑って、スタッフのヤツが業務を終えたら飲みに行く。安定かつ最強のムーブを決めるわけよ。


 僕はその日が初めての『モダンホライゾン』のパックに触れる機会だった。以前BMで働いていた頃はパック剥きで毎セットに触れているので知らないカードなどなかったが、最近ではMTGアリーナに出てこない特殊セットはもうまったくわからん。構築で使われていないカードは初見の嵐だ。中でも特に気になった1枚が、《呪文消し》。


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なんてことはない、数多ある《取り消し》の上位互換の1つだ。ライフが5点以下だったらボーナスを得る窮地能力付きで、そのオマケは1ドロー。窮地は『闇の隆盛』が初出。怪物たちが隆盛を極め、保護者亡き人類は存亡の危機に立たされている...窮地はそんなフレイバーを反映した能力だ。


ピンチの時にだけ強い、というのは理想的なカードとは呼び難い。そもそもピンチに陥らないようにデッキを構築した方が良いからだ。そんな当たり前の理由で窮地は人気がなかった。その窮地が再録か...という理由で気になったのではない。そんなのは些細なことだ。


 大事なのはカード名である。《呪文消し》って、なんやそらと。よくこんなシンプルというか、ざっくりしたカード名が今まで残っていたなと。マジックには万を超すカードが存在する。カード名が被らないように新しいカードを作り続けるのは決してイージーなことではないだろう。それを踏まえて、《呪文消し》という名前が残っていたというのがなんだか面白かったのである。


英名は《Spell Snuff》。Snuffとは鼻をふんふんと鳴らしたり鼻から何かを吸うことを意味する動詞。同時に、息を吹きかけてろうそくを消す、そこから転じてシンプルに消す、はたまた殺すという意味も持つ。B級マニアにはスナッフフィルムというフレーズはお馴染みだね。


マジック的には《殺し/Snuff Out》というカードがパッと思いつく。このカードのsnuffは殺すという意味ではなく、呪文を吹き消すって意味で捉えて問題ないね。イラストでは業火をつまんで蚊取り線香の煙みたいに消してしまっている。ちょっとしたイリュージョンだ。イラストとカード名、「おやすみ。」というフレイバーテキストが絡み合って何ともシュールではないか。



第2回 名は体を表すのかい、表さないのかい


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 というわけで今回は個人的に印象に残るカード名にツッコミを入れたりエピソード解説をするなどして取り上げていくコラムにしよう。冒頭の友人が結婚するなどの件で思い出話編になるかと思ったって?回顧ばかりしてちゃあ老害コラムなんて言われそうだからね、色々やってくんですわ。それじゃ早速1枚目~。



ダウスィーの精神ドリッパー
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トップバッターはこの手のカードの中でもメジャーなものを。今更?と思われるあなたはベテランよ。もうこれを知らない若い層も増えてますからね、取り上げることに意義はあるってもんですわ。このカード名を読んで、まずなんのことかわからないだろう。


ダウスィーは一目で固有名詞とわかるが、ドリッパー?コーヒーを飲む人ならピンとくる。コーヒーを淹れる時に使う器具だ。ピンとくるが、だからこそピンとこない。精神ドリッパー?前後とも頭が付いたようなこいつに噛みつかれると、精神がポチョンポチョンとドリップするとでもいうのだろうか。


答えは...誤訳である。英名は《Dauthi Mindripper》。Mind(精神)とripperを合わせた造語だ。ripperは切り裂きジャックをJack The Ripperと呼ぶように何かを切り裂く者を意味する。《ダウスィーの精神切り裂き魔》とか訳されていればニュアンスは伝わったことだろう。しかしながらドリッパーと誤訳されたことで今日まで忘れられることのない一枚となったことは紛れもない事実だ。愛嬌ってやつね。



うんざり
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 平仮名のみのカード名というのはインパクトが強い。他に《ぼんやり》《ものぐさ》が思いつくが、《うんざり》はイラストとのシナジーもあって強く記憶に残る。エルフもゴブリンも縛られて血反吐はいて、明らかに何かに感染してるしうんざりの域を超えてないか?英名は《Sick and Tired》。「死ぬほどうんざりした」という言い回しだ。


sickもtiredも単体で○○にはうんざりした、飽き飽きしているという意味で用いられ、これらが2つ合わさることでもうほんまにだるいんやって!といううんざりっぷりが強調されるという訳だ。このカードも構築においては大して強くないので、《うんざり》という名前じゃなかったら記憶に残ってなかっただろうな。シンプルで良い訳。



サプラーツォのアウトリガー艇
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 サプラーツォが固有名詞なのは良いとして、アウトリガー艇って何よ?これを始めてみたのは中学生の頃。そんな時に今みたいにwikipediaになんでも載ってるわ~なんてこともなく、長年謎だった。後に調べて知ったのだが、舷外浮材のことらしい。


はぇ~舷外浮材ね...読みは「げんがいふざい」。カヌーなんかの本体から支柱が伸びて浮きと繋がってる、あの浮きのことらしい。安定感が増して転覆を防げるんだと。イラストを見ると確かにそれが描かれている。アウトリガーって響き、無条件でカッコイイよね。


カードには船というタイプが描かれているが、乗組員であるマーフォークにタイプ変更が為されている。マーフォークが船に乗っているのであれば転覆しても大丈夫ではないか?いやまあ物を運ぶ時には彼らも船を必要なんだろう、サプラーツォのマーフォークらは海中に都市を築いているが、《リシャーダの港》なんかと交易をする際には船を使うんだろうね。



剛力のブルヴァックス
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 マジックお得意の、何の説明もなく出てくる固有の生物名。ブルヴァックスとはなんですのん。剛力のというが、非力なものや迅速だったり堅朗だったりする他のブルヴァックスは一頭たりとも出てこない。この手の突拍子もなく出てきて特にストーリーに絡むでもなく、単発で同種族のいないクリーチャーってのは大体が緑のビースト。《毒噴きブラッカス》とかね。


ブルヴァックスは語感が良いので脳にこびりつく。どうでもいい話だが、大学の講義で大人数で受けるものだと、カードで出欠確認とかしてたよね。ある時バイトで休んだ友人にカード出しといてお願い!と頼まれ、世の中は助け合いやとカードの名前と番号を記入。


最後に講師から「カードの裏に感想を書いて出すように」と言われたのでそいつのカードの裏に「ブルヴァックス!って感じですよね」と書いて提出した。そいつはその単位を落としていた。今でも大学の友人らと集まると「ブルヴァックス事件忘れられんわ」と話題になる。彼らはマジックをしておらず、それでもブルヴァックスという単語がしっかりと記憶に刻まれているのだから、その語感の良さは疑うまでもないよね。



地うねり》《地のうねり


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 ここまで似通った字面の2枚、他にあるか?「の」が間に入るだけでえらい違いである。かたやリミテッドでは攻防の要となるコンバットトリック。1マナで上陸していれば1マナで+4/+4と《巨大化》を上回る効率で、感染クリーチャーで毒殺を狙うデッキでも使われた経歴あり。


かたや...なんですのこのテキストは。《森の代言者》がどんだけ強かったかよくわかる。《ドライアドの東屋》が3/3、ハッピーかい?イラストだけはパワーが溢れているので、Foilをコレクションするなどは玄人のマジックの愛し方として良いんじゃないか。ちなみに《地のうねり》にさらに1文字足した《大地のうねり》も存在する。これぞうねり御三家。



ピョンピョン自動人形


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 Hoppingをピョンピョンと訳しているセンスがたまらない。ピョンピョンは一旦置いといて、自動人形って響きも良いよなぁ。僕がマジックを始めたタイミングって割と固まってこの自動人形という名のカードが複数作られた頃。最近自動人形ってフレーズも見ないし寂しいなと思って調べたら、最新のもので『時のらせん』に再録された《愚鈍な自動人形》だった。最近って何の話よ。


 いにしえの話だが、プレリか何かのイベントで《ピョンピョン自動人形》に飛行を与えて毎ターン1点ずつ削っていたプレイヤーが、その能力起動のためにカードを指さして「ピョンピョン」と宣言したところ、その対戦相手が「あなたピョン、ピョンと2回ジャンプさせましたよね?-2/-2修正なんで死んでください」と謎のいちゃもんをつけてきた、という事件があったらしい。どんだけ負けたくなかってん(笑)



ファイティング・ドレイク


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 いきなりフットボールチームみたいな名前で何?と初見時に思わざるを得なかった1枚。同テンペスト・ブロックには《ファイティング・チャンス》というファイティング仲間がいる。今なら《好戦的なドレイク》とか《闘争の好機》とかに訳されるのだろうか。Fightingをカード名に冠するものはこの2枚しかないため、いつの日か現れる第3のカードがどのような名前になるか楽しみである。《ファイティング・ゴブリン》とかそういうだっさい名前に期待したい。



武装解除
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 日本語名に関する話ばかりなのでここらで英名にツッコミを。《武装解除》の英名《Disarm》は元々、『ジャッジメント』のあるカードに使われる予定だった。しかし《Disarm》はテキストが短くシンプルにして優秀な英単語であるため、こんなところで使うのは勿体ない!来るべき時に、それに相応しいカードに用いるべきだとの結論にデザイナーたちは至った。


で、その《Disarm》というカード名に与えられたテキストがこの、装備品を外すとかいうどうしようもない効果なのは...どうやねんと。『ミラディン』で装備品が初登場した時には、新しい時代に対応するにはこのカードを使うしかないんだなぁと騙されたなぁ。ちなみに、初代《Disarm》候補は《天啓の光》というカード名になった。確かに武器を取り上げるというイメージとエンチャント破壊は少々異なるので名前変更自体は納得だが...。



Erase (Not the Urza's Legacy One)


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 カードに名前を与えるというのはなかなかに大変なことであるというのが今回のコラムで伝わったことだと思う。そこで最後の1枚はこれ。『ウルザズ・レガシー』の《消去》と同じカード名を与えられながらも「それとは別物だよ!」なんてわざわざ注釈が付け加えられている。


消しゴムをモチーフにしたカードが作りたいという思いからわざわざこんなカード名を付けているわけだが、同時にこれが収録されている『アンヒンジド』のようなセットで貴重な、限られた英単語を消費したくない!という意志も見える。単語は有限なのだ。後世のために極力残してやれねばならないという、デザイナーらの親心の結晶...と捉えるのはちと大袈裟か?


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 今週はここまで。知る人ぞ知る、僕が以前書いていたコラムに近いものになってしまったが...あれも1000回越えてからモチベーション保つのが大変だったなぁ。そういう記事を書く時の裏話とかも案外面白いのかもしれないし、自分語りの域を出ないどうでも良いものなのかもしれない。そこそこに面白いぐらいのものを続けていきたい所存である。ほな、また。



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