By Yohei Tomizawa
まだグランプリ本戦前日にも関わらずプロツアー予選の決勝戦は豪華な顔ぶれとなった。
先ずは『グランプリ・シンガポール2018』のチャンピオンであり、チーム『武蔵』に所属する市川 ユウキ。言わずと知れたトッププロはスイスラウンドを1位抜けするとそのアドバンテージを活かし、他を寄せ付けない圧倒的なプレイングと相まって決勝戦までやってきた。
その手に握られているのは使い慣れた「グリクシスデルバー」。《死儀礼のシャーマン》と《ギタクシア派の調査》が禁止されてもなんのその。リビルドされたデッキは完成度もさることながら、それを活かしきる市川の練度の高さについても言うまでもないだろう。
だが、対戦相手も並みのプレイヤーではない。
レガシー界を代表する高野 成樹。プロツアーこそ参加はないものの、それはフォーマットのためだろう。『BMO』に限らずありとあらゆるレガシーの大会で、指定席が如くトップ8入賞を繰り返すレガシー界のSeth Manfieldは、まさにこのプロツアー予選を待っていた。
「今日じゃなくて明日なんだよぁ。」
プロツアーはもちろんだが、グランプリ本戦こそ勝ちたい。体力、集中力を考え、そんな気持ちから出た言葉だろう。
どちらともなく、そんな声が聞こえた気がした。
いや、聞き違いだろう。今日も、そして明日も勝つ。プレイヤーにとって、負けていい戦いなどありはしないのだから。
:ゲーム1
市川は迷わず後手を取る。単純な速度ではなく、リソースの削り合いになると読んでのことだ。市川曰く、先手で許容される展開は「《秘密を掘り下げる者》が2連続に《意志の力》」とかなりハードルが高い。
しかしながら市川は《秘密を掘り下げる者》でスタートし、次のアップキープでは変身せずに1点ダメージ。第2メインで《思案》を唱えると、高野はスタックして《渦まく知識》を唱える。
何でもないような、軽量ドロースペルの応酬。そこへ、市川はスパイスを加える。
高野のアップキープに優先権を得ると、
対象、高野。
デッキトップに積み込んでいたのは《終末》と《意志の力》。手札破壊でも、ダメージスペルでも、カウンターですらない。対戦相手のリソースを奪うはずのない呪文は致命的なまでに突き刺さり、プランを瓦解させる。
スイパースペルの憂いを立つと、市川は《秘密を掘り下げる者》2号機を続ける。
唯一の除去を落とされた高野は《僧院の導師》でダメージレースを画策するが《稲妻》がそれを許さない。逆に市川はデッキトップから《目くらまし》を公開し、2体の《秘密を掘り下げる者》を変身させ、一気に6点のダメージを与える。
このままでは高野のライフは2ターンと持たない。しかし手札に除去はなく、解決策を求めて《瞬唱の魔道士》を召喚する。
「《渦まく知識》か」
市川は墓地を確認すると《意志の力》でカウンターし、フルタップで《グルマグのアンコウ》を続ける。
高野に残された唯一の逆転プラン、そのために《先触れ》をプレイする。3枚に《終末》はなく、運命を天へと託しリシャッフル。
そして市川のアップキープ。
《平地》をドローすると、高野は静かにゲームをたたんだ。
高野 0-1 市川
たった1マナのキャントリップスペル。
自身の墓地を肥やすものと、固定観念があったと言われればそうかもしれない。
それでも、僅か1枚で市川はゲームを決めてみせた。
:ゲーム2
先ほどの《秘密を掘り下げる者》による攻勢を憂い、先手と悩む高野。しかし優先すべきは感情ではなく、理論だ。後手を宣言し、市川の《思案》でゲーム2は始まる。
淡々とマナベースを作りながら、ドロースペルを挟み合う序盤。先に動いたのは市川だ。《渦まく知識》で手札を整えると、《若き紅蓮術士》をプレイグラウンドへ。
高野は《渦まく知識》や《先触れ》をキャストし、このやっかいなクリーチャーへの対処手段を探すが中々見つからない。
《思考掃き》、《思案》と手札を減らさずにクロックを増やし、気が付けば2点、次は4点...ではなく6点増えていく。高野の《基本に帰れ》をカウンターしたことでトークンは更に増える。
更にクリーチャー以外のパーマネントとして《最後の望み、リリアナ》をキャストし、高野へ対処を迫る。
だが、ここで高野はデッキ名通り奇跡を起こす。
盤面をリセットすると、こちらもプレインズウォーカー《精神を刻む者、ジェイス》。《稲妻》で落ちないように、自身のライブラリーを検閲することで忠誠値を5とする。
トッププレイヤー同士の対決は、ここから休むことなくカードの応酬となる。市川は見事ワントップでこのカードへ対処する。《紅蓮破》だ。
厄介なパーマネントを対処すると市川は《最後の望み、リリアナ》の奥義を狙って忠誠値を増やす。
一見ミスはない。それでもゲーム後に語るには、あそこの《最後の望み、リリアナ》の使い方が勝負を分けた、と。
高野の更なるトップデッキは《粛清》!厄介な《最後の望み、リリアナ》を破壊してみせたのだ。
盤面綺麗なったところで今度は高野が攻める。《ヴェンディリオン三人衆》でクロックを用意しつつ手札を検閲する。
市川は天を見あげつつも《思考掃き》と《稲妻》2枚を公開する。高野のライフは10だが、クロックも厄介なパーマネントもないため手札はキープとした。
市川は《思考掃き》で強引に《若き紅蓮術士》を引き込むと《稲妻》を《ヴェンディリオン三人衆》へ。《若き紅蓮術士》こそ対処するものの、忘れ形見が1点のクロックを刻み続ける。
市川は《最後の望み、リリアナ》で《秘密を掘り下げる者》を拾い、高野は《精神を刻む者、ジェイス》で《渦まく知識》を起動する。
手札、ライフとも遜色なく互角。この場面で、市川は再びあのスペルを唱える。《思考掃き》を、高野へ。
《渦まく知識》効果でトップに積まれていたのは《精神を刻む者、ジェイス》と《瞬唱の魔道士》。《精神を刻む者、ジェイス》本体も《稲妻》で落とされることで、一瞬にしてイニシアチブを握る市川。ただのキャントリップスペルが、またもリソースカードへと変換される。
しかし高野のドローも粘り強い。《瞬唱の魔道士》をトップデッキし、《議会の採決》で黒き美女を落としてみせたのだ。
互いにプレインズウォーカーも失い、再びトップデッキ勝負。
市川は《秘密を掘り下げる者》からすぐに3点クロックを開始、高野のライフを4とすると、
「嫌な予感がするなあ。」
そう言いつつも《グルマグのアンコウ》を召喚した
その予感は的中する。高野がキャストしたのはここまで隠しに隠した《至高の評決》。
これにより盤面は静寂をみせるが、市川は素早く《若き紅蓮術士》を召喚し、高野はただ頷くのみ。除去もなく《相殺》を置くと、ターンを返す。
アタックにより高野のライフは残り2となるが、《終末》をキャストし今度こそ市川のクロックを止めてみせる。《虚無の呪文爆弾》も《相殺》でライブラリトップをめくりカウンター。
少し、ほんの少しのアドバンテージを得たかたちだ。ただ、そのほんの少しのリードを維持し、勝つのが奇跡ではないか。
高野は遂に《僧院の導師》を召喚し《先触れ》でトークンを作ると、市川のドロー後に《ヴェンディリオン三人衆》をキャストする。
市川はスタック《紅蓮破》を唱えるが、高野は素早くライブラリートップを返す。そこには積み込まれていたのは《思案》。また、リード広がる。
《予報》で手札とトークンを増やすと、高野の7点クロックをスタートする。《カラカス》が《ヴェンディリオン三人衆》をバウンスすることでハーフロック状態となり、市川に対してインスタントタイミングでの干渉を迫る。
市川と言えども、一度始まった《ヴェンディリオン三人衆》の支配から抜け出すだけの時間は残されていなかった。
高野 1-1 市川
高野が《至高の評決》をいつから持っていたかはわからない。そこまで隠し通し、プレイしてみせた。
それこそ序盤の《若き紅蓮術士》に対して使用する可能性もあったはずだ。
しかし早すぎればリソース面で、遅すぎればライフ面で押され、勝負はわからなかった。
高野が勝つには、あのタイミングしか存在しなかったのだ。
:ゲーム3
静かにセットランドとドロースペルが繰り返されるが、いつでもゲームを動かすのは市川から。先ずは《呪文貫き》を避けるように2マナ残しながら《思考囲い》。
高野はどうしたものかと考えつつも手札を公開し、
《精神を刻む者、ジェイス》、《瞬唱の魔道士》、《議会の採決》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》、《剣を鍬に》×2
から《議会の採決》を捨てさせられた。
そしてここで高野の土地は止まってしまう。エンドするしかなく、市川は《渦まく知識》、《思考掃き》とライブラリーを掘り進める。
高野は市川のアップキープに《ヴェンディリオン三人衆》を召喚するもここには《紅蓮破》が。そして《瞬唱の魔道士》を牽制する《屍気の呪文爆弾》が置かれた。
なんとか4マナ目を引くがどうしたものかと悩み、高野が出した答えは市川のエンドに《瞬唱の魔道士》。注文通り《虚無の呪文爆弾》を起動し、アドバンテージを稼がせない。
1ターン挟み市川は《若き紅蓮術士》を召喚するも、高野は《剣を鍬に》、更にスタックして《稲妻》が《瞬唱の魔道士》へ撃ち込まれトークンが1体生成された。
ここからクロックと除去のいたちごっこが始まる。
《秘密を掘り下げる者》が出れば《剣を鍬に》。
《思案》を挟んで2体目となる《秘密を掘り下げる者》にはナチュラルに《終末》。
それでも市川の手からは都合3体目となる《秘密を掘り下げる者》。高野も当然のように《剣を鍬に》するが、フェッチランドによるからは4度目の《秘密を掘り下げる者》が着地を果たす。
今度こそダメージレースがスタートするかと思うも、高野は《仕組まれた爆薬》をすぐに起動した。
ここで市川の攻め手は途切れ、高野が攻めへと転じる。《思案》からゲームプランを練り《島》を2枚立たせつつ、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をキャストする。
市川は《呪文貫き》でタップアウトしたのを確認すると、《目くらまし》で打ち消す。《精神を刻む者、ジェイス》も《紅蓮破》し場は静寂が続く。
市川は《グルマグのアンコウ》、高野は《僧院の導師》とお互いに巨大なクロックを形成する。
「胡散臭い」
プロの嗅覚というべきか、市川は只ならぬ気配を感じたようだ。そうは言っても待つわけにもいかず、この巨大なアンコウをレッドゾーンへ送りだし、高野はトークンを生成するために《渦まく知識》をキャストする。
スタックして《稲妻》。
高野はトークンでチャンプブロックしつつ、自ターンに入ると《渦まく知識》で積み込んだ《終末》を公開する。
市川はここが勝負どころと《意志の力》をキャストする。それも《基本に帰れ》、《呪文貫き》をケアするために、土地が5枚あるにもかかわらずピッチコストでプレイ。
高野の手に《終末》を通すためのカウンター呪文も、巨大なクロックへの対処手段はない。されらを探し出すためのドロー呪文もなく《相殺》を置くとターンを返す。
《グルマグのアンコウ》のアタックで残り9。後2ターンの内に高野は解決策を引かなければならない。
しかし、解決策を引くには2ターンもかからなかった。
トップデッキした《精神を刻む者、ジェイス》が着地すると、《グルマグのアンコウ》をバウンスする。
そしてこのプレインズウォーカーに対処するため市川は《稲妻》をキャストする。
高野は《相殺》でライブラリトップを表に返す。ここは触れてはいない未公開領域のはず。
それでも、高野の気持ちに応えるようにカードはそこに鎮座していた。
ここで公開されたのは《渦まく知識》。
「こりゃいかれたな」
これにより市川の手から《精神を刻む者、ジェイス》を対処する手段は失われ、《グルマグのアンコウ》のクロックは止まってしまう。
再度、高野が《精神を刻む者、ジェイス》を起動すると、市川の手にこのロックを抜け出す手段はなく投了を宣言した。
高野 2-1 市川
『プロツアーロンドン』予選、優勝は高野 成樹!おめでとう!