By Yohei Tomizawa
決勝戦のテーブルには「MUD」、「オース」とヴィンテージ界を代表するデッキが座っていた。
「MUD」を使用し、地元愛知でヴィンテージに勤しむのは小田 直輝だ。私生活の変化もあり大会へ参加するのは実に3年ぶりとのことであるが、ブランクを感じさせない的確なプレイと《クルーグの災い魔、トラクソス》といった最新鋭のカードを採用したレシピで勝ち進んできた。
「MOはやらず、名古屋駅近くのお店で遊んでます。大会に備えての対人練習はあまりできませんでしたが、大会結果はきちんと見て情報収集はしてます。」
使い慣れた「MUD」とはいえ新エキスパンションが出るたびに影響を受け、デッキの立ち位置や相性も変化していく。それでも小田は限られた時間を最大限使い、収集した情報から仮想敵を見定め、納得いくデッキを用意した。
『エターナル・ウィークエンド・アジア2018 ヴィンテージ選手権』でサバイバル系の隆盛を確認したため、サイドボードには《墓掘りの檻》《トーモッドの墓所》と多くの墓地対策カードが準備されている。
「デッキパワーは高いので後は如何に《ダク・フェイデン》《魔力流出》を踏まないかですかね。予選ラウンドでは序盤に蓄積したダメージを《ミシュラの工廠》のダメ押しで何とかビートダウンしてきましたが、踏まないに越したことはない。」
踏みたくないといっていた《ダク・フェイデン》を4枚使用するのはヴィンテージ界きっての「オース」使い、《Time Walk》が2枚使える男 高橋 研太だ。第2の《Time Walk》こと《ドラゴンの息/Dragon Breath》は今回も健在で、準々決勝では速攻を得た《引き裂かれし永劫、エムラクール/Emrakul, the Aeons Torn》により大逆転勝利をおさめた。《綿密な分析/Deep Analysis》や《罰する火/Punishing Fire》といった《ドルイドの誓い/Oath of Druids》と相性のいいカードも引き続き採用され、墓地をリソースとしても重要視しているのがわかる。
『エターナル・ウィークエンド・アジア2018 ヴィンテージ選手権』でトップ8入賞を果たしたレシピからの変更は僅かに2枚。メインボードの《精神を刻む者、ジェイス》が《騙し討ち》に、サイドボードの《沈黙の調停者》が《難問の鎮め屋》になっているのみだ。
瞬きも忘れるような決勝戦をみていこう。
ゲーム1
マリガンこそするものの、値千金の先手を得たのは「MUD」小田。《不毛の大地》と《Mox Jet》で2マナを用意すると、先ずは《ファイレクシアの破棄者》をキャストする。
高橋の手札には《意志の力》はあるが、残りは《定業》や《ギタクシア派の調査》といった軽いドロースペルばかり。許可すると小田は迷わずに《ダク・フェイデン》を指定する。
自身のターンへ入ると先ずはライフをコストに《ギタクシア派の調査》をキャストし、《意志の力》の対象を見定める。《Mox Sapphire》から《定業》でトップ2枚を下へと送ると《沸騰する小湖》をセット。
小田 直輝
静かな動きの高橋に対し、小田は攻め立てる。《Mox Emerald》でマナを増やし《電結の荒廃者》を召喚。ここへ《ダク・フェイデン/Dack Fayden》をコストに《意志の力》をプレイし、クロックの増加はならなかった。
マナ加速にはマナ加速を。高橋も《Mox Emerald》で4マナを確保し、2枚の《Volcanic Island》をフェッチするとタップアウトで《綿密な分析》をキャストし、ドローを進める。
小田はこの隙を見逃さず《からみつく鉄線》をプレイグランドへと放ち、動きをロックアップしてしまう。しかも2枚の《不毛の大地》は未だ健在なのだ。
トップデッキした《Ancestral Recall》が《Black Lotus》を引き込み、手札に抱える《業火のタイタン》への道が見えるが、もう2ターンほど先になりそうだ。小田視点でいうならこの2ターンの間に、ライフを詰め切るしかない。
《Black Lotus》でマナを生成すると2枚目の《ファイレクシアの破棄者》(《精神を刻む者、ジェイス》指定)でクロックを倍化、残り9の高橋に3ターンのクロックを突きつける。更に2枚目のロックスペルとして《抵抗の宝球》をキャストし、完全に動きを封じる。
倍化したクロックと2枚のロック系アーティファクトにより、実質何もせずターンを返す高橋。しかし反撃の準備は整っている。4枚の土地、2枚のマナアーティファクトに《Black Lotus》。次のターンセットランドで計10マナ。《からみつく鉄線》と《抵抗の宝球》の上からでも7マナは確保できている。そう、《不毛の大地》が起動されなければ。
小田は勝負所は見誤らない。ここまで引き付けた《不毛の大地》2枚を起動しマナベースを攻め、アタックしてライフは5。《歩行バリスタ/Walking Ballista》さえあれば次のターンにも削りきることは可能だ。
マナ不足となってしまった高橋は《定業/Preordain》をキャストし確認するが《Time Walk》と《定業》と、求めるマナは手に入らない。このターンに《Black Lotus》を生贄に《Time Walk》を唱えることも可能だが、状況は変わらない。寧ろ《業火のタイタン》による逆転を考えるならば、この《Black Lotus》を切ることはできない。しかも《Time Walk》を使用しても《からみつく鉄線》でタップされる数は変わらず、追加ターンを上手く活かすことができない。
不確定な未来よりも確実なカードを求め、高橋は2枚を下に送り、《Tropical Island》を引き込むことに成功する。返すターンに小田がダメージソースも妨害手段も追加できなかったことで、1ターンを跨ぎやっと高橋が自由に動ける時間が訪れる。
《Black Lotus》を生贄に《業火のタイタン/Inferno Titan》を召喚すると、小粒のクリーチャーを薙ぎ払う。続くターンには赤マナを注ぎ込み、一気に小田のライフ7までを詰める。
僅かに1ターンで、状況は一変してしまった。小田の場には黒と緑のモックスのみ。《不毛の大地》以降土地が引けず、《抵抗の宝球》が枷となり動くに動けない。
ドローを確認すると、小田は敗北を認めサイドボードを手に取った。
小田 0-1 高橋
ゲーム2
《ミシュラの工廠》《Mox Ruby》《Black Lotus》で5マナを生み出すと、再び《ファイレクシアの破棄者》で《ダク・フェイデン》を指定する小田。1マナでキャストした《墓掘りの檻》は《精神的つまづき》されるも、《抵抗の宝球》で動きを完全に封じ込める。
高橋は《Tropical Island》をフェッチすると《Mox Sapphire》《Mox Ruby》と《抵抗の宝球》の上からマナを揃える。
小田は2ターン目から積極的に《ミシュラの工廠》をアクティベートし、時間を与えない。《抵抗の宝球》の影響が色濃くある内にビートダウンを完遂しきる算段のようだ。
使えるマナが少ないならば増やすまでと、高橋は《Time Walk》を《不屈の自然》のようにマナ加速として使用する。
《不毛の大地》を《禁忌の果樹園》へ突き刺すと、小田はアンタップ状態の4つのマナを気にしつつも、初志貫徹と再び2体のクリーチャーをレッドゾーンへ。
しかし、ここでフルオープンの高橋の手からキャストされたのは《古えの遺恨》!
《ミシュラの工廠》を破壊し、自身のターンへ入ると《ファイレクシアの破棄者》もフラッシュバックで破壊する。高橋は《抵抗の宝球》を破壊するのではなく、小田のクロックとマナベースを破壊することで小田自身の首が絞まることを選択したのだ。
少ないマナからトップデッキした《電結の荒廃者》を召喚するが《意志の力》でカウンターされ、増えた墓地をコストに《宝船の巡航》がキャストされカードとマナが補充される。
再度召喚された《電結の荒廃者》こそ着地を果たすが、如何せん遅すぎたのだ。
高橋は新戦力である《騙し討ち》をキャストする。
手札には当然のように《引き裂かれし永劫、エムラクール》の姿が。
上空を舞うエルドラージを確認すると、小田は敗北を認めカードを片付け出す。
しかし途中で手を止め、どうしても頭を離れない疑問を高橋へとぶつける。自分の予想が正しかったのか確認の意味も込めて、一言。
「《ドルイドの誓い》、入ってますよね?」
小田 0-2 高橋
『エターナル・ウィークエンド・アジア2018 ヴィンテージ選手権』のレシピより僅かに2枚だけ、こう聞くと完成度が高いのと同時に固定観念によってレシピのアップデートが疎かになっているように感じる。
否。高橋は驚くほど新しいカードたちを試してきた。
ラヴニカのギルドではドローと相性のいい《パルン、ニヴ=ミゼット》。新たなドラゴンの登場で基本セット2019の《火の血脈、サルカン》へも光が当たった。次は《ドルイドの誓い》のエンジンと相性のいい再活呪文を試すという。
高橋の「オース」はパワー9を始めとした制限カード、カウンターとエンジン部分を抜くと、残る部分はデッキの強みを活かすようにシナジーの最大化へ充てられている。このシナジーを形成するパーツの選択に余念がない。それは「オース」の特性と高橋の特徴からなる。
《ドルイドの誓い》と《禁忌の果樹園》のコンボにより自在にクリーチャーを出す「オース」は、その過程で大量に墓地へとカードを送り込む。その部分に着目し第2の手札として使うべく《罰する火》、《綿密な分析》、《ドラゴンの息》といったカードたちが採用されている。
そしてゲーム1、2からもわかる通り、高橋はデッキにたった2枚しかないクリーチャーを異様に引いてしまうのだ。メタカードの役割もあるが《ダク・フェイデン》は手札に来てしまった《引き裂かれし永劫、エムラクール》を処理する手段を兼ねている。今回新採用になった《騙し討ち》も、だ。
《精神を刻む者、ジェイス》も同じ役割を果たし、カードパワーの高さはいうまでもない。それでも高橋はカードパワーではなく「オース」というデッキの戦略と合致するか、《紅蓮破》といった対策カードにも当たらないことも考慮し《騙し討ち》を採用したのだ。《ドラゴンの息》が第2の《Time Walk》ならば、《騙し討ち》は5枚目の《ドルイドの誓い》だろう。「オース」と自身の特性を考えるからこそ、次は墓地にある場合手札を捨てる必要がある再活呪文を試そうとしているのだ。
高橋と「オース」の旅に終わりはない。きっとこれからも自分だけが使うことを許された75枚を構築し続けるだろう。
固定観念のない高橋の「オース」には、無限の可能性に満ちている。
「ヴィンテージ選手権」、優勝は高橋 研太!おめでとう!