text by Seigo Nishikawa
朝の9時に集まった330人のプレイヤーは、そこから11時間が経過し、いよいよ4人へと絞られた。この日通算しての11試合目となるこの試合は所謂準決勝。王者の座まではあと僅かに2歩。しかしそれは踏み外すことが決して許されない2歩。
ここまでの長い戦いを繰り広げた4人には流石に疲労の色が浮かぶ。シャッフルしすぎて手が痛いと冗談めかして言うプレイヤーもいる。「予選から先はボーナスステージですよね」そういった者もいた。326名のプレイヤーには許されなかった試合を迎えることが出来るという幸せもここには間違いなくある。
ここまで来たのだから、悔いの無い、楽しかったといえる試合を送ってもらいたい。
BIG MAGIC Sunday Modern 準決勝 木村 一生 vs 石川 琢誠
Game1
予選ラウンド上位の木村が先手。《氷の橋、天戸》続いて《彩色の宝球》《オパールのモックス》という立ち上がりに対して、石川は「人間」と言いながら《手付かずの領土》そして《霊気の薬瓶》と続ける。
「人間かぁ、終わったー」と弱音を漏らす木村。それでも《森》《精神石》《物読み》と順調な立ち上がり。
一方の石川、《翻弄する魔道士》をキャストすると、少し顎に手をあて禁止するスペルに考えを巡らす。石川の脳内から導き出された結論は《蔵の開放》。果たしてこの選択はどうでるか。
この石川の動きを見て《クラーク族の鉄工所》を建設した木村は《彩色の星》や《彩色の宝球》を使いライブラリーを掘り進めると、最終的に《マイアの回収者》《黄鉄の呪文爆弾》などを設置することで次ターンへの準備を整えた。
石川は愚直にライフを狙いにいく。《カマキリの乗り手》を召喚すると、《霊気の薬瓶》から《幻影の像》を続け6点のダメージ。これは木村の《仕組まれた爆薬》をX=3で2体とも破壊されてしまい、更なるダメージを重ねることは出来ないが、そのかわりに《氷の橋、天戸》からカウンターを奪い取って見せた。
何とか命をつないだ形となった木村だが、ドローするとため息をつく。《マイアの回収者》で攻撃することしか出来ず、エンドには《反射魔道士》、そいて《帆凧の掠め盗り》と邪魔者が次々と追加される。
この石川の《帆凧の掠め盗り》は木村の手札が《彩色の星》《クラーク族の鉄工所》《減衰球》であることを暴き立てるとそこから《彩色の星》が掠め取られてしまい、ここに《黄鉄の呪文爆弾》を起動せざるを得なくなった。
ラストターンとなった木村。気合を入れなおしドロー、そのカードを見てやむなく《彩色の星》3枚を次々と《クラーク族の鉄工所》に放り込む。しかしその4枚は無常にも全て土地。戦場に残った最後のドローソースである《精神石》に手をかける。
そこで引き込まれたのが
霊気紛争で登場したこのカード。実際に使われているところを見たことが無い人も多いかもしれない。はっきりと能力を覚えている、と言う人はもっと少ないのではなかろうか。しかしこのカード、木村が今から成し遂げる勝利の前に絶対に欠くことのできない一枚なのである。
屑鉄は今の木村には黄金そのものであった。
「無限入ります。手順を説明しますね」
木村の華麗な手つきと説明で、今からおきることの説明が開始される。木村にとって大会でも家でも、時には友人と遊び、暇があればひたすらひとり回ししていたと語る動きだ。そこに間違えは生じない。
《減衰球》をキャストし即座に鉄工所で放り込むとと、墓地から《彩色の星》を回収。これを再び燃料へと変え今度は《オパールのモックス》。ここにいたり《オパールのモックス》は《Black Lotus》へと進化を遂げる。
手札から《クラーク族の鉄工所》を追加するとこれも間髪入れずに資源に変換。今度は《マイアの回収者》を手に戻し、《マイアの回収者》は《クラーク族の鉄工所》と《彩色の星》を引っ張り上げる。この過程で好きな色のマナと好きな枚数のカードが木村に供給され
所謂無限マナ、無限ドローと言う状態が完成した。
自分が負けたという状況を理解した石川は、《黄鉄の呪文爆弾》が無限に連鎖爆発することを悟るのであった。
「最後にあったのが《減衰球》でよかった。2マナじゃないとダメだった」
《彩色の星》《クラーク族の鉄工所》《減衰球》そして《屑鉄さらい》と、これしかないという組み合わせを作り上げた木村が華麗にコンボを決めて見せた。
木村 1-0 石川
Game2
この勢いで2本目も、といきたい木村であったがまさかのダブルマリガン。そしてその手札が、石川の《帆凧の掠め盗り》によって
《発明博覧会》
《クラーク族の鉄工所》
《彩色の星》
《古きものの活性》
であることが明かされる。
石川は、木村のファーストアクションが《ダークスティールの城塞》からの《彩色の宝球》であることを再確認すると、諸悪の根源たる《クラーク族の鉄工所》を奪い取る。t
木村は《発明博覧会》を設置すると、既に確認されている《彩色の星》を置いて終了。石川は戦線に《カマキリの乗り手》を追加して、攻撃を開始する。石川が押し、木村が耐える。この構図はサイドボード後も代わりが無い。
木村は《彩色の宝球》を捧げて緑マナを得ると《古きものの活性》で《胆液の水源》を手に入れると、《マイアの回収者》と《黄鉄の呪文爆弾》。
石川は押し続ける。Game1は最後の1ターンで逆転負けを喫した。ここで手を緩める道理は一切無い。《幻影の像》という名の《カマキリの乗り手》で更なる圧力を増しライフを2まで落とし込むと、《反射魔道士》で《マイアの回収者》を押し返す。
《黄鉄の呪文爆弾》で《帆凧の掠め盗り》から《クラーク族の鉄工所》を取り返した木村。Game1に続きラストターンが訪れる。しかし今回は《マイアの回収者》を使用することが出来ず、無限に入る道は閉ざされている。
使用できない《マイアの回収者》を恨めしそうに横にのけた木村は道を探す。最後のドローは《物読み》だ。そしてその《物読み》は《屑鉄さらい》を木村へ授ける。「勝ちなさい」デッキが木村に語りかけているかのようだ。木村は呼吸を整える。今こそ何百回と繰り返してきたあの練習の日々の成果を見せるときだ。
そして木村の14分に及ぶ独壇場がスタートする。
丁寧にそれでいて確実にかつ素早く、加えられるマナと色、ドローするカード、墓地から戻すカードそれらを間違えないように進めていく。石川に残されたハンドは3枚、自由に使えるマナは1マナ。人間デッキと言うアーキタイプを考えれば、実際のところここから大きな妨害は飛んでこない。
普通に考えれば。
だがここは準決勝戦。何かのミスで、何かの想定していないカードで逆転を喫するなど許されない。マナを積み重ね、手札を1枚増やすたびに木村の勝利が1%ずつあがっていく。遂には《屑鉄さらい》が3枚場に並び、1枚の《彩色の宝球》が3枚の《オパールのモックス》に変わるという状態を作り上げる。
《引き裂かれし永劫、エムラクール》も重ね、追加ターンも獲得する。
だがそれでも100%ではない。99.9%勝っていても見えない何かを警戒する木村。だが今確実なことは一つある。墓地からのアーティファクト回収は止められてない。幾度と無く《オパールのモックス》を手札→戦場→墓地と循環させ、1周ごとに赤マナを1つずつ増やしていく。
そしてこれが10に達すると、いよいよ《黄鉄の呪文爆弾》へと手をかけた。
木村 2-0 石川
「○○使い」と呼ばれるプレイヤーがいる。一つのデッキを使い続け、新セットが出ればそこから得られるものは無いか探求し、自身のデッキを信じ戦い続ける者。その思いと努力は必ず報われるときがくるのだと思う。
一つのものを極めるというのは並大抵の努力ではない。だがその努力なくして勝利は無い。2ゲーム通じて最後に木村の元に駆けつけた《屑鉄さらい》は、その事実を雄弁に語っていた。
"《クラーク族の鉄工所》所長" 木村一生、堂々の決勝進出