[BIG MAGIC Open Standard Vol.10] 決勝 星出 直柔 vs 三原 槙仁
[BIG MAGIC Open Standard Vol.10] 決勝 星出 直柔 vs 三原 槙仁
by Genki Moriyasu
「これまで全部違うアーキタイプとの当たりだった」と話す三原。
スイスラウンド10回戦からのシングル・エリミネーション2回を終えた感想だ。
混沌とする新環境であることを示すかのような出来事だが、それらの殆どを倒してきた三原の実力もまた確かなものだ。
魔王。
2度の世界選手権優勝経験を持つ殿堂・三原 槙仁の異名は、彼と直接関わりないプレイヤーの多くも知るところだ。
対する星出も、東京や神奈川の大会を中心に大規模大会への参加は多いようだ。
『イクサランの相克』期スタンダードを締めくくった晴れる屋開催の環境名人戦では、三原と同じくトップ8へ進出している。
その際は【ジャンド(赤緑黒)】デッキを選択していたが、色を絞った【ラクドス(赤黒)】を持ち込んでいる。
大半のカードは赤マナでプレイできるものだが、サイドボードの《悪魔王ベルゼンロック/Demonlord Belzenlok》は特徴的だ。
(左、三原 右、星出)
Game 1
スイスラウンド無敗、1位抜けの星出が先手番だ。
《狂信的扇動者》から《戦凧の匪賊》。
先に動いたのは三原だ。
この2体を星出が《ゴブリンの鎖回し》で一掃する。
だがそれは王神というデッキにすれば、致命的ではない。
後の復活のための種でもあるのだ。
その一歩である《来世への門》を、三原が設置する。
だがその予定調和を更に星出が待ったをかける。
《反逆の先導者、チャンドラ》から赤マナを出して《削剥》で《来世への門》を割る。
三原は2枚目の《来世への門》を置いたが、土地が伸びていない。
星出は《反逆の先導者、チャンドラ》をプラスしてライブラリーをめくっていく。
"上"から降ってきた《ボーマットの急使》をプレイして三原のライフを攻めてゆく。
三原は《歩行バリスタ》X=0で《来世への門》を誘発させてゆく。
更に《機知の勇者》もプレイして、《戦闘の祝賀者》2枚を捨てつつ、墓地のクリーチャーを7枚にした。
ターンが帰ってきて、マナが浮けば《王神の贈り物》へとつながる状態だ。
星出は《反逆の先導者、チャンドラ》プラスから《キランの真意号》をめくってプレイ。
既に忠誠値は7に達しており、ライフが心もとなくなりつつある三原にとっても脅威となってきた。
星出はここで勝負にでた。
《ゴブリンの鎖回し》2体目をプレイ。
誘発型能力のダメージで《機知の勇者》を落として《ボーマットの急使》と《ゴブリンの鎖回し》でアタックしてライフを攻めていく。
攻められているなかでもターンをもらった三原は予定通り《王神の贈り物》を探し出す。
《戦闘の祝賀者》をリアニメイト。督励して追加のコンバット・フェイズを予約する。
攻撃宣言先は《反逆の先導者、チャンドラ》。
星出、《戦闘の祝賀者》のテキストを読み直しつつ、長考して受け答えを考えてゆく。
《反逆の先導者、チャンドラ》の忠誠値カウンターを消費して《キランの真意号/Heart of Kiran》に搭乗。
ブロックして相打ちを取る。
その後、追加のコンバット・フェイズが始まる。
2体目の《戦闘の祝賀者》リアニメイト。そして督励。
これも《反逆の先導者、チャンドラ》アタックへ。
先制攻撃を持つとはいえ3/3の《ゴブリンの鎖回し》では4/4を受け止めきれず、《反逆の先導者、チャンドラ》のカウンターを減らしてゆく。
そして3度目のコンバット・フェイズ。
《機知の勇者》リアニメイト。
ハンドと墓地をそれぞれ2枚増やしつつ、《反逆の先導者、チャンドラ》へ攻撃。
難攻不落であった《反逆の先導者、チャンドラ》をついに落としてみせてから、《戦凧の匪賊》を盤面に追加して三原がようやくターンを終えた。
星出は三原のカードや挙動に注意を払い、時間をかけつつも勝ち筋を見つけ出そうとしていた。
そこで星出が選んだプレイ・カードは2枚目の《反逆の先導者、チャンドラ》。
このプラスでめくったのは―...《削剥》!
「それは、まずいんじゃないの」
三原の表情が一気にくもった。もちろん、プレイのための2マナも浮いている。
《削剥》プレイにあたって、繰り返し墓地を確認する星出。後続はまだまだありそうだ。
《王神の贈り物》を破壊する。
その後、速やかにゲームを終わらせるにかかるためフル・アタックを仕掛ける。
《ボーマットの急使》と《戦凧の匪賊》が相打ちになりつつも、三原のライフはじりじりと減って残り6だ。
ここで三原は4枚の土地からうち3つをひねって、3枚目の《来世への門》を設置した。
残る1つでは《スカークの探鉱者/Skirk Prospector》をプレイ。即座に生け贄にささげて、ライフを得つつルーティングしてゆく。
そしてセット・ランドから《来世への門》を起動した。
《王神の贈り物》の次なるリアニメイトは《戦利品の魔道士》。
探したのはもちろん、最後4枚目となる《来世への門》だ。
星出は三度、《反逆の先導者、チャンドラ》のプラスにかけてゆく。だがスペルはめくれず、三原のライフを削るばかりだ。
だが、その三原の削るべきライフもあとわずかだ。あとわずかだが、届かない。
《ゴブリンの鎖回し》2体は4/4ゾンビ2体に行く手を完全に阻まれている。
最後のハンドから《再燃するフェニックス》をブロッカーとして用意する。
だが三原の《王神の贈り物》2枚設置による物量が、そのブロッカーたちを完全にのりこえた。
督励のタップ障害から開けた《戦闘の祝賀者》が追加の戦闘フェイズを与えつつ《戦凧の匪賊》2体でブロッカーを完全に無力化。
4/4 4体がアタックし、そのうち3体は2回の攻撃で星出のライフを削っていく。
ここまでわずか2点しか削られていなかった星出のライフは、このターン中に空になってしまった。
【赤青王神】の爆発力が、炸裂した。
三原 1-0 星出
Game 2
三原の初手は《査問長官》、《戦闘の祝賀者》、土地5枚。
星出の初手は《山》《廃墟の地》、《屑鉄場のたかり屋》、そして3マナ以上のスペル4枚。
対照的なスタートだ。
ゲーム・スタートは星出の《屑鉄場のたかり屋》から。
2ターン目、三原は《歩行バリスタ》を引いて、動き始めた。
3ターン目、星出は《山》をひいた。
星出はハンドに《霊気圏の収集艇》をもつがここは《廃墟の地》起動を優先して《沼》を確保した。
キーカードとなる《無許可の分解》を機能させるためだ。
三原も《霊気圏の収集艇》を着地させてゆく。
この《霊気圏の収集艇》+搭乗要員がいるなかで、星出は《屑鉄場のたかり屋》をアタックにむかわせる。
三原は「絶対になにかあるな。《削剥》かな」と口にする。
それでもそのなにかしらかのスペルを"使わせる"ことをえらんだ三原は《霊気圏の収集艇》に搭乗する。
もちろんブロック前に《無許可の分解》が合わさってライフは計6点を失った。
三原は《機知の勇者》プレイで《戦闘の祝賀者》を捨ててから《沈黙の墓石》を設置する。
《沈黙の墓石》は書いてあるようにもちろん墓地対策カードだが、《王神の贈り物》は対象をとらず阻害されない。
加えて《没収の曲杖》のような他の墓地対策は対象を取る都合上、墓地対策・対策としても機能する。
三原は《査問長官)》は《霊気圏の収集艇》の発生分のエネルギーも使って墓地をこやしてゆく。《イプヌの細流》も起動して墓地を肥やすと、準備は万端にととのった。
ここから《来世への門》でサーチ。あるいは潤沢なマナから《王神の贈り物》本体をプレイ。あるいは《戦利品の魔道士》からの2段サーチ。
どのルートでも対応できるほどマナもそろったが、カードが引けない。
星出も同様に順調にマナを伸ばしていっていた。
しかし三原と異なる点もある。星出は身となるカードも引けていた。
《霊気圏の収集艇》プレイ。《再燃するフェニックス》プレイ。《無許可の分解》プレイ。
トドメとばかりに《栄光をもたらすもの》が空を駆けた。
星出 1-1 三原
Game 3
《ボーマットの急使》をはしらせて先手を握ったのは三原だ。
《山》《山》から《歩行バリスタ》と続けて、ライフを少しずつ削ってゆく。
星出の初動は《屑鉄場のたかり屋》とあって、三原のクリーチャーが止まるのはまだもう少し先のようだ。
三原、3ターン目に《島》をセットして《来世への門》を設置。
実は《山》2枚の土地でキープしていた三原であったが、すんでのところで土地事故を回避していた。
このタップアウトをみて星出は《キランの真意号/Heart of Kiran(AER)》を設置してから《マグマのしぶき》をカードを3枚"食べている"《ボーマットの急使》に差し向ける。
ここでマナが使えない三原にできることは少ない。2択だ。
自身の《歩行バリスタ》で《ボーマットの急使》を焼いて、《来世への門》を2回誘発させる。
《歩行バリスタ》を生き残らせるため、《ボーマットの急使》をそのまま追放させる。
三原は一瞬悩んだ表情をみせたが、一気に墓地をたがやす選択をした。
自ターンには《査問長官》と《戦利品の魔道士》プレイ。2枚目の《来世への門》をサーチした。
次のターンの動きが、互いに難しかったようだ。
土地を3枚で止めた星出はカードをプレイせず、《屑鉄場のたかり屋》で搭乗して《キランの真意号》でアタックしてゆく。
三原も5枚目の土地がない。
2枚目の《来世への門》を出すタイミングがシビアだ。
《査問長官》起動で墓地には《発明の領事、パディーム》も含めてクリーチャー6枚。
《戦利品の魔道士》でアタックしてから《来世への門》2枚目を設置。
加えて《歩行バリスタ》にもたどりついていた。X=0でプレイ、"自殺"して《来世への門》を2回誘発させてゆく。
《戦闘の祝賀者》も次第に墓地にたまってゆく。
1枚目の《来世への門》を起動して《王神の贈り物》を探した。
そして、もう2マナは浮いているが、2枚の《来世への門》を起動せず、三原はこのままメインフェイズ終了の宣言をおこなった。
《来世への門》を《王神の贈り物》に"変化"させない理由はなんだ―...?
遠目に試合を眺めていた観客たちにも若干のざわめきが伝播していた。
その謎は明らかにならないまま、コンバット・フェイズが進行してゆく。
《王神の贈り物》が誘発し、《機知の勇者》をリアニメイトして4ドロー・2ディスカード。
その後の速攻アタックには星出は《無許可の分解》を合わせて、こらえてゆく。
三原は第2メインで《スカークの探鉱者》を2枚プレイしてターンを終えた。
星出は4枚目の土地のセットが、まだ出来ずにいた。
ハンドにはパワー・カードがたまってゆく。
《キランの真意号》で殴り続けることは出来ているが、《来世への門》のライフ・ゲインもあって、ゲームの終着も近いようで遠い。
三原のライフは5だ。
三原が今度は《歩行バリスタ》をリアニメイト。
エネルギーを使いきった《査問長官》、《戦利品の魔道士》、 《スカークの探鉱者》2体、そして4/4《歩行バリスタ》でアタックを仕掛ける。
置かれている土地は6枚。星出のライフは12。
星出がここを"しのぐ"のには、対応が必須だ。
※《歩行バリスタ》のカウンター設置を1度起動して戦闘ダメージで10点与えたあと、《スカークの探鉱者》2体とも生け贄にもう一度《歩行バリスタ》のカウンター設置を起動。
《歩行バリスタ》で2点をプレイヤーに飛ばせば、ちょうど12点。
《歩行バリスタ》1度目のカウンター設置起動にあわせて、《無許可の分解》を《戦利品の魔道士》へ打ち込んだ。
三原はライフ2になってから《来世への門》を誘発させ、3に戻す。
ルーティング解決後、カウンター置かれて戦闘ダメージが通る。
(8点はいって星出のライフは残り4。)
第2メインで《スカークの探鉱者》2体を生け贄にマナをねん出。
予定通りカウンター2個をのせたバリスタだが、予定よりも星出のライフはわずかに多く残っている。
この2点でライフではなく《屑鉄場のたかり屋》を焼いて《キランの真意号》の搭乗要員を蹴落とし、
星出が三原の「残り5」点というライフをけずるのを極めて高難易度なものにした。
《キランの真意号》の為の搭乗要員の用意だけでは1点足りず。
解決しえるカードとしては、土地をトップして、《反逆の先導者、チャンドラ》をプレイしてプラス能力から三原2点あてて《キランの真意号》に搭乗・アタック―...
というルートが分かりやすいものだろうか。
しかし星出にそのルートを示すカードは―...こなかった。
星出 1-2 三原
僅か。本当にあと僅かのライフを残して、三原Win!
試合が終わったあと、三原が「ミスったよ」と口にした。
それはGame 3で最後まで姿をみせなかった2枚目の《王神の贈り物》のことだ。
三原はあえて2枚目の《来世への門》を起動せず、《王神の贈り物》を溜めていたわけではない。
探すべき《王神の贈り物》が《来世への門》が探し出せる範囲から"逃げて"しまっていたのだ。
《来世への門》が探せる範囲はハンド、ライブラリー、墓地。
そこにないということは―...ゲーム最序盤ではしった《ボーマットの急使》。
彼が裏向きの追放領域だけだ。
(2枚目の《来世への門》をサーチしたときにライブラリーのなかにある《王神の贈り物》の枚数を確認して)
既に1枚しかないことが分かっていれば2枚目の《来世への門》はあのタイミングでは置かなかったと話す。
「ミスった方が負ける」。
マジックのゲーム性を象徴する表現だが、三原は自らのミスを自覚したあとも慌てずゲームの立て直しに努め、勝った。
「マジックはミスるゲームだよ」と話すプロ・プレイヤーもいる。
好調や幸運なときに勝つのは簡単かもしれない。
しかしミスや劣勢を立て直すには、確かな実力が必要だ。
そして三原はその確かな実力を、今日もまた見せつけた。
BIG MAGIC Open Standard Vol.10、優勝は三原 槙仁!おめでとう!