Text by Moriyasu Genki
1年振りとなったBIG MAGIC Open(略称:BMO)は新セット『ドミナリア』発売の翌日開催という新環境世界最速の大規模大会となった。
製品発表当時から懐古的な観点から注目されていた『ドミナリア』は、セット全体のカードパワーの高さでも競技者たちを驚かせた。
魅力的なカードは多種多様だ。
トリプルシンボル・サイクル。伝説のソーサリー。英雄譚。
そして新たな側面を見せる伝説の人物たち。
枚挙に暇なく、新カードたちは環境を激変させるだろうと思わせるに足る刺激的なテキストが書かれている。
そしてその影響を最も大きく受けるフォーマットは、もちろんスタンダードだ。
自ら組んだ新デッキを活躍させる場を求め、定員500人の予約は早々に締め切られている。
明日のBIG MAGIC Sundayのモダンとレガシーもそれぞれ初期定員を超える330人・400人が参加予定となり、BMO史上最大規模の大会となることは間違いないようだ。
その最大大会の参加者の顔振れも豪華だ。
殿堂・三原 槙仁を筆頭にレベル・プロたちやスポンサード・プロたちの姿も多い。
新環境を純粋に楽しみにきたカジュアルなプレイヤー。
近日開催されるプロツアーの前哨戦として調整を図りにきたプロ・プレイヤー。
雑多混沌に入り混じるのも、BMOの特徴の1つだろう。
前大会(BMO Vol.9)王者、水谷 陽介も参加者の欄に名前があった。
前大会では【緑黒エネルギー】を選択し、《光袖会の収集者》を巧みに使いこなした水谷の今回の選択デッキは【緑単《原初の飢え、ガルタ》】だ。
《ラノワールのエルフ》から《鉄葉のチャンピオン》、そして《原初の飢え、ガルタ》プレイへと速やかに繋げる環境最大最速の"押し付け"デッキはトップメタと噂されている。
※後ほどメタゲーム・ブレイクダウンが発表されるが、実際会場を見回しても《原初の飢え、ガルタ》デッキを選択したプレイヤーは多そうだ。
最初のテキスト・カバレージでは水谷の試合の模様をお伝えする。
水谷に対する櫻木 健太もまた、緑軸のクリーチャー・デッキを選んだプレイヤーだ。
だがしかし、そこには《原初の飢え、ガルタ》も、《鉄葉のチャンピオン》も、《ラノワールのエルフ》も存在しない。
彼のライブラリーのなかに眠るのは耳の長いドミナリアのエルフたちやイクサランの恐竜ではなく―...耳の尖った、アモンケットの猫たちだ。
【緑白猫】デッキ。
エネルギー戦法を代表するクリーチャーである《牙長獣の仔》が猫であることを知るプレイヤーは意外と少ないかもしれない。
《聖なる猫》、 《典雅な襲撃者》の2種は【青白不朽】のようなデッキでも採用実績がある一線級であるし、
《威厳あるカラカル》はコントロール全般のフィニッシャーの択にあがるエンドカードの立ち位置も持つ。
これらに《誇り高き君主》や《光輝の運命》などを採用して部族シナジーを高めてまとめたのが緑白猫デッキだ。
浦瀬 亮佑選手がMOPTQを勝ち抜いた【緑白機体】とは同じカラーリングながら別のアプローチだ。
【緑白機体】同様、横展開を得意にするため《典雅な襲撃者》+《旗幟+鮮明》はフィニッシュブローの立ち位置だ。
恐竜 対 猫。マジックでも類を見ない異種格闘技戦が、始まる。
(左)水谷 (右)櫻木
Game1
【緑白猫】櫻木の先手。
ワンマリガン・スタートの櫻木は土地1枚で始めたが、無事2ターン目に《まばらな木立ち》をドロー出来ている。
少しゆっくり目だがゲームプランを立ててゆくことになりそうだ。
【緑単《原初の飢え、ガルタ》】水谷も後手2ターン目まで動きはない。
だが3ターン目の《鉄葉のチャンピオン》プレイが、緩やかだったゲームの速度を一気に早めた。
《ラノワールのエルフ》経由でなくとも、5/4に回避能力つきという"3ターン目のサイズ感"としての常識を覆すクリーチャーだ。
この脅威を前にして、櫻木は《牙長獣の仔》からの翌ターン《光輝の運命》プレイ。指定を「猫」としてデッキタイプの告知とともに後続の支援を図る。
しかし水谷は動じない。《不屈の神ロナス》をプレイして櫻木の猫よりサイズで勝る戦闘力を示してゆくことで、櫻木を後手後手に追いやってゆく。
ゲームの流れを変えるには受け手の櫻木が回答を示さなければならないが、ここで展開したクリーチャーは《牙長獣の仔》2体目と《聖なる猫》だ。
水谷は《鉄葉のチャンピオン》を《立て直しのケンラ》でパンプ・アップしつつ、猫の群れへ《鉄葉のチャンピオン》と《不屈の神ロナス》でアタック。
櫻木は若干の長考の末、(《光輝の運命》によって)3/3である《牙長獣の仔》2体で《鉄葉のチャンピオン》を、《不屈の神ロナス》を《聖なる猫》でキャッチして《鉄葉のチャンピオン》を落とすことを決めた。
しかし水谷のハンドが櫻木の受け答えを上回った。
《顕在的防御》で《鉄葉のチャンピオン》のサイズをあげ、相打ちを防いで《牙長獣の仔》2体を一方的に打ち倒した上、メイン2で2体目の《鉄葉のチャンピオン》を追加した。
一気に盤面が劣勢においやられた櫻木は、単独で《誇り高き君主》をプレイ。
だがしかし、《光輝の運命》の修正を含んでも君主が生み出すトークンのサイズは2/2で、《鉄葉のチャンピオン》のアタックを防げない為に、ライフが保たない。
水谷 1-0 櫻木
櫻木は猫(Cat)をフィーチャーした部族デッキだ。
そしてアモンケットの猫たちは長生きをするものであり、群れるもののようだ。
トークン生成の能力を持つカードが非常に多い。
不朽(《聖なる猫》)、永遠(《典雅な襲撃者》)、起動型(《誇り高き君主》、誘発型(《威厳あるカラカル》)。
多角的かつ継続的なトークン戦法を得意とする。
通常のビートダウンにはトークン戦法は強みがあるはずだが、トークン戦法そのものに強い《鉄葉のチャンピオン》はやはりネックとなる1枚のようだ。
櫻木はサイドボードから対策カードを投入し、《聖なる猫》のようにかわいらしいネコスリーブを丹念にシャッフルして、Game2に挑む。
櫻木 健太
Game2
櫻木のスタートは3ターン目《典雅な襲撃者》だ。
その返し、水谷は《ラノワールのエルフ》から収集艇と続けていた。
後手ながら先に3マナにアクセスできる《ラノワールのエルフ》はやはり、その有無でハッキリと展開力が異なる。
3ターン目、水谷は《緑地帯の暴れ者》プレイ、着地後の誘発型能力にスタックして搭乗。
さらに《緑地帯の暴れ者》の能力解決前に収集艇の絆魂能力を起動することでエネルギー量を調節しつつ《緑地帯の暴れ者》をハンドに戻し、アタック。
ここに櫻木がドミナリアからの対策カード封じ込めをあてて苦手とする飛行を対処したが―...
水谷はメイン2に《緑地帯の暴れ者》出し直しと《キランの真意号》プレイの再展開で再び櫻木に対して押せ押せの戦法をとってゆく。
翌ターンには《鉄葉のチャンピオン》プレイから《キランの真意号》搭乗へと続けて、《原初の飢え、ガルタ》・プレイ。ハンドのクリーチャー全てを吐き出すような怒涛の展開だ。
櫻木も《威厳あるカラカル》で横に広げて急場を凌いでゆく。
だが水谷が既に着地させている《原初の飢え、ガルタ》、《キランの真意号》、《鉄葉のチャンピオン》はそれぞれなにかしらチャンプブロックを許さない部分を持つ高性能アタッカーだ。
櫻木はすべてのクリーチャーをブロックに回さざるをえないが、ダメージは軽減しきれない。
《威厳あるカラカル》の絆魂付与による分で多少のライフの猶予は得たが、いずれにせよ決定的な解決策を引かなければならない。
具体的には戦場をほとんど一掃しつつライフを取り戻せる《燻蒸》だが―...櫻木が引いたカードに、その2文字の漢字は書かれていなかった。
水谷 2-0 櫻木
水谷「ほんとにスリーブ通りのデッキだったんですね」
水谷は驚きつつも微笑みをみせていた。
櫻木のスリーブは対戦の為に対面する相手の気持ちも朗らかにするような可愛らしさがあった。
(【赤単】プレイヤーは真っ赤なスリーブを好む―...というような逸話もあるが、ネコスリーブの持ち主が猫デッキを使っていると判断するのは難しいだろう。)
櫻木は「こんなファンデッキですみません」と口にしたが、《典雅な襲撃者》+《威厳あるカラカル》+《旗幟+鮮明》という、ダメージレースを完全に覆すフィニッシュブローは水谷も明確に意識していたようだ。
櫻木のパーツが揃う前に緑単が持つ展開力を活かしきれて良かったと水谷は語る。
加えて、《鉄葉のチャンピオン》の「パワー2以下のクリーチャーにはブロックされない」というテキストが突き刺さった展開でもあった。
こうしてゲームを振り返ると猫デッキは《原初の飢え、ガルタ》に展開力で劣るようにもみえるが、
採用している《フレイアリーズの歌》を引いていればトークンの量はマナの量へ変換されていて、ゲームプランは大きく変わったことだろう。
だが逆に、緑単は特定のパーツに左右されにくい安定したゲーム運びが出来る特徴が輝いたともいえる。
スイスラウンド10回戦、長丁場を見据えての水谷の選択でもあるようだ。
そのパワフルさと安定さを両立させたデッキを従えて、水谷は今、連覇への道を歩みはじめた。
水谷 Win!